出会い

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「で? 好きになっちゃったの?」 「うん……」  あきママの問に小さく答えた。あきママは呆れた顔をする。  そりゃそうだ。ノンケを好きになったっていうんだから。  今日は仕事終わりにあきママのお店に寄った。近況報告を兼ねて。 「まぁねぇ。恋なんて落ちようと思って落ちるものじゃないけど、ノンケはねぇ」 「わかってる。わかってるよ。不毛だって言うんだろう」 「あら、わかってるじゃない」  ノンケの立樹のことを本当に好きになってしまった、と報告したのだ。  ゲイにとってノンケを好きになったら不毛だ。だって絶対に叶わない恋だと最初からわかっているのだから。  かといってあきママの言うように落ちようと思って落ちてるわけじゃない。    まぁでも今回のことは防ぎようもなかったかもしれない。だって、初めて見たときに好みだと思ったのだから。  いわゆる一目惚れだ。好みどストライクだったから一目で恋に落ちた。  一目惚れなんてあるとは思ってなかった。外見だけ好みだって好きになることはない、と思っていた。でも、あったのだ。外見が好みどストライクでそれだけで好きになってしまった。  そして距離が近づいて、人となりを知るにつれて想いは強固なものとなったのだ。  一目惚れではいくら気をつけたって無駄だ。想いが確かなものになるのは、まだ防げられたのかもしれない。性格に難があれば一目惚れも冷めただろう。でも、難なんてなかったのだ。それどころか誠実なところに惹かれた。つまりはダメ押しされたようなものだ。 「ノンケはゲイの敵よ」  あきママはいつもそう言う。でも確かにそうかもしれない。  俺も経験あるが、ノンケ相手にどんなに好きになろうが報われる日は永遠にこないのだ。  相手がゲイだって、両想いになるのは奇跡に近いと悠は思っている。  でもそれがノンケ相手だったら奇跡が起こることなんてないのだ。つまり両想いになる可能性は0%だ。  時間だけ無駄に食うのだ。 「でも落ちちゃったならどうしようもないわよね」 「でしょー。好みどストライクだったんだよ」 「よっぽどいい男なのね」 「めちゃいい男だよ」 「会ってみたいものね。連れて来なさいよ」 「え~ここに?」 「ここ以外どこがあるのよ。わたしの店はここだけよ。あ、カミングアウトしてないの?」 「カミングアウトはしてる」 「ならいいじゃない」 「え~取らない?」 「あら、取り合いになるようないい男なのね。余計に会いたくなるわ」 「まぁ、そのうちね」    立樹にはカミングアウトしてる。だから、ゲイばれを気にする必要はないのだ。   でも、ここに連れて来たら、あまりのディープさに立樹は驚くだろうし、何より立樹がモテるであろうことが嫌なのだ。  自分のものではないし、自分のものになることはない。でも目の前で立樹がモテているのを見るのは嫌なのだ。  単なる友達だけど、友人としてでも取られるのは嫌なのだ。単なる独占欲だけど。  ノンケ相手に恋をして、独占欲出して馬鹿だな、と思う。思うけど、元々恋なんて馬鹿なものだ。  でもなぁ、ノンケ相手だったら大馬鹿だ。そう思って小さくため息をついた。 
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