可愛い男

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 明日は休みだし俺も唯奈とのデートの予定がない宅呑みということで、俺も悠もいつも以上にピッチが早かった。  それでも、お互い明日予定があるわけではないから、悠が呑み潰れて家に帰れなくても問題がない。  それで気が緩んでピッチが早くなっているのだろう。   「立樹いいなー」 「なにが」 「俺も恋人欲しい」 「俺がいる恋人は悠が興味のない女だよ」 「そうだけどさ、恋人がいるっていうことには変わりないじゃん」 「じゃあ悠は彼氏が欲しいっていうこと?」 「うん」  悠に彼氏ができる......。  ちょっと想像してみたけど、嫌だ、と思う。  別に悠は俺のものではない。だから俺以外の恋人ができたっておかしくはないし、それが普通だろう。  でも、嫌だと思ったのだ。 「彼氏いないのって半年でしょ。まだいいんじゃない?」 「えー。これ以上になったらすっごく寂しい人じゃん」 「寂しいから彼氏欲しいの?」 「そういうわけじゃないけど。いや、そういうのもあるかな?」 「どっちだよ」 「とっちもー」  悠は結構アルコールが回ってきてふわふわしているのがわかる。 「寂しいから好きでもない人と付き合う?」 「寂しいのは嫌だけど好きな人と付き合いたい」 「例えば?」 「えー。そんなの言えないよー」 「なにそれ。俺に隠しごと?」 「そうじゃないけどさー」 「じゃあ言っちゃえ。今日はお互い結構お酒呑んでるから明日には忘れちゃうよ」 「そっか。あのねー立樹みたいな人」  悠の口から俺の名前が出たときはドキッとした。  一瞬、心臓が止まったんじゃないかと思うくらいだ。  悠は俺が思ってるよりもも酔っているのかもしれない。   「俺でいいの?」 「うん。だって立樹格好いいし優しいし、一緒にいて楽しいし。彼氏にしたいー」  そう言ってこっちを向いてふにゃりと笑う悠はとにかく可愛い。  俺は男を好きになったことはない。恋愛対象は女だ。それは間違いない。  だけど、頬を赤く染めて恥ずかしそうに俺が格好いいと言う悠は、可愛いとしか言葉が出てこない。  そこで考えてみる。他の男に同じことを言われたら、俺はどう思うだろう。  間違いなく嬉しいとは思わないし、可愛いなんて言葉は出てこないだろう。  それが悠言うところのネコの子だとしても。  ネコの子の中にはきっと中性的な子もいるんだろう。それこそ本当に顔立ちの整った子もいるだろう。  それはわかる。でも。それでも俺はきっと悠が一番可愛いと思うだろう。  そして、どんな人に格好いいと言われても悠に言われるのが一番嬉しいだろうと思っている。  俺にとって悠は特別なのだ。 「俺も悠といるのは楽だし楽しいよ。可愛いしな」 「うわ。両思いだー」  そう言ってケタケタと笑う悠は可愛い以外の何者でもない。  しかし、いくら悠とはいえ、まさか男を可愛いと思う日が来るとは思いもしなかった。  けれど、可愛いものは可愛いんだから仕方がない。  そこでふと考える。唯奈と悠のどちらが可愛いんだろう。  いや、女と男では性別が違うのだから同列に考えることはできないし、おかしい。  それでも考えてみる。  顔はどちらも可愛いと思う。  自分の彼女のことを言うのもなんだけど、唯奈は可愛い方だと思う。現に友達にも言われている。だから可愛いと思うのは俺だけの感想だけではないはずだ。  では悠はどうだろう。これは第三者の意見がないけれど、男にしては可愛い部類に入るんではないだろうか。  少なくとも俺はこんなに可愛い男は見たことがない。  決して女っぽいとかいうことはない。きちんと男として見える。けれど可愛いのだ。  こんなに可愛い可愛いと思うのってどうなんだろう。相手は男なのに。 「あーほんと立樹がゲイならいいのに。あ、そっか立樹のそっくりさんがいればいいんだ。俺、あったまいい」  悠はかなり酔っているようだ。これ、明日記憶あるんだろうか。記憶あったら恥ずかしがりそうだな。  でも。俺のそっくりさんがいればいいって。   「そのそっくりさんがいれば、そいつと付き合う?」 「うん! だって立樹は彼女いるじゃん。だからいない方と付き合う」  悠の中の俺のそっくりさんは彼女がいないらしい。  しかし、俺のそっくりさんと言ったって、似ているだけであってそれは俺じゃない。  そのそっくりさんと悠が一緒にいるところを考えると面白くない。  悠の隣にいるのは俺以外は嫌だと思う。  この独占欲は……。  考えたくないけれど、そうなのだろうか。  可愛いと思うこと。俺だけでいて欲しいという独占欲。きっと好きになったのではないか、と思う。  今もこの先も恋愛対象は間違いなく女の俺が、悠に対してだけは特別なんだ。  でも、この気持ちは心の奥底にしまっておく。  でないと、この気持ちが加速して進んでしまうから。  これからもノンケ(というらしい)でいるためにはそうしてしなければいけない。  そんなことを考えていて、ふと悠を見るとテーブルに突っ伏して寝てしまっている。  笑っているような顔をしていて、ほんとに可愛いな。  俺以外にそんな可愛い寝顔見せるなよ、とここでも独占欲が顔を出す。  俺以外に見せるなと言うくせに俺が一歩踏み出すことはない。  身勝手だな、と思う。  でも男と恋愛するのはハードルが高すぎる。だからごめん。  心の中でそっと謝って可愛い寝顔を見つめる。
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