雨上がり

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 毎年春になると、この町には長い梅雨が訪れる。今年も例外ではなく、連日の大雨が続いていた。町の人々は家の中にこもり、畑仕事もできず、子どもたちは外で遊ぶことができずに退屈していた。  その中に、10歳の少女、さくらがいた。さくらは元気いっぱいの女の子で、雨の日が続くと元気をなくしてしまう。毎日窓から外を眺め、青空が恋しいと願っていた。さくらの家の庭には、彼女が大事に育てている花壇があったが、連日の雨で花たちはしおれてしまい、見るも無残な姿になっていた。 「お母さん、いつになったら雨がやむの?」  さくらが尋ねると、母親は優しく答えた。 「もう少しの辛抱よ、さくら。きっと晴れる日が来るわ」  ある日の朝、さくらが目を覚ますと、窓の外に眩しい光が差し込んでいた。彼女は飛び起きて窓を開けると、目の前には青い空が広がっていた。雨上がりの清々しい風が吹き込み、空気はとても澄んでいた。 「お母さん、見て! 晴れたよ!」 「本当ね。さくら、外で遊んでおいで」  さくらは急いで着替え、外へ飛び出した。雨上がりの庭は、まるで別の世界のように美しく輝いていた。花壇の花たちも、雨に洗われて再び元気を取り戻していた。さくらは一つ一つの花に話しかけるように、手を差し伸べて喜びを分かち合った。  その時、庭の片隅に小さな虹色の光がちらついた。さくらは興味津々で近づいてみると、そこには小さな妖精がいた。妖精はさくらに気づくと、微笑んで彼女に話しかけた。 「こんにちは、さくら。私は雨上がりの妖精、レイラよ」 「レイラさん、こんにちは!」  さくらは驚きと喜びで声を弾ませた。 「あなたは本当に妖精なの?」 「そうよ。私は雨が上がった後に現れて、人々に幸せを届けるの。さくら、あなたがずっと花を大事に育ててくれているおかげで、私はここに来ることができたのよ」 「本当に? それって素敵!」  さくらは感激した。 「お礼に、さくらに特別な贈り物をあげるわ」  レイラは言いながら、小さな虹色の花びらを差し出した。 「この花びらを持っていると、いつでもあなたの心に虹がかかるの」  さくらは感動して、その花びらを大切に受け取った。 「ありがとう、レイラさん」 「どういたしまして、さくら。これからも花を大切に育ててね。それがあなたの幸せの源になるわ」  レイラは再び虹色の光に包まれ、ふわりと宙に舞い上がって消えていった。     さくらはその瞬間を心に刻み、花びらを大事にポケットにしまった。  それからというもの、さくらの心にはいつも虹がかかっていた。花壇の花たちもますます美しく咲き誇り、町の人々にもその幸せが広がっていった。  どんなに雨の日が続いても、さくらはもう元気をなくすことはなかったという。
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