郵便屋さん 落とし物

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 わざと自販機でジュースを買おうとしてみる。相手は今がチャンスと思ったのかとうとう足音を隠そうとせずに駆け寄ってきた。そして気づいていないふりをして襲い掛かって来たところに思いっきり蹴りを入れる。 「いてえ!?」  しかし声を上げたのは女ではなく男の声だ。しかもその声は、日ごろからよく聞いている。 「……直樹」  呆然と言うと直樹は血走った目でナイフを振りかざしてくる。それをギリギリでかわして腕を掴んで捻るとあっさりとナイフを落とした。そして鳩尾に膝蹴りを入れて突き飛ばす。 「どういうことだよ」 「げほ、テメエクソが! さっさと死ねよ!」  恨まれていたのか。虚しい感情に頭が真っ白になるが、直樹が落としたスマホを拾った。気になるものがちらっと見えたのだ。返せと再び襲いかかってきたが今度は強めに頭に蹴りをはなつ。脳震盪を起こしたらしくうずくまったまま起き上がらないので、ロックがかかる前にスマホを見た。 「おしごと掲示板?」  要するに闇バイトや裏の仕事だ。一般では出回らないような犯罪関係の仕事。そこにはっきりと書かれている。 『斉藤隆介を殺してくれた人には百万円差し上げます』 「は?」  直樹の髪を掴んで無理矢理上に引っ張り上げる。自力で立てない直樹は髪の毛だけで宙づり状態だ。痛い痛いとギャーギャー喚くが、鬼のような形相の隆介に怯えて黙り込んだ。 「要するに何? お前金欲しくて俺を殺そうとしたわけ?」  そう言うと一瞬直樹は目が泳いだが、やがて見たこともないような蔑むような笑顔を浮かべる。 「別にいいだろ、おまえごときで百万手に入るんだったら! パチスロもガチャもやり放題じゃねえかよ!」  そんなことのために。怒りを通り越して笑いさえこみ上げてくる。 「そっか。よかったな、留置所では何もできねえから依存症治療にちょうどいいだろ」  そう言うと今更気づいたように悪かった助けてくれと喚き散らし逃げようとする。 「両手足折っておいたほうがいいか? そうすれば逃げられないだろ」  低い声で静かに言うとおとなしくなった。こんなクズと気が合うなんて思っていた自分が本当にばかばかしくなる。警察に電話をしようとした時だった。 「隆介!」 「沙織?」  沙織が駆け寄ってくる。 「なんで」 「あの話しちゃったのは私だし、心配だから実はこっそり後つけてたの」
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