8人が本棚に入れています
本棚に追加
郵便屋さん 落とし物 拾ってあげましょう
一枚二枚三枚四枚五枚……
一体何枚拾えば終わるのだろうか。集めたものは全て自分宛だ。あのストーカー女からのラブレターと、贈り物の数々。見覚えがないので、死んだ後に受け取ってもらうための物だ。
モノクロの世界に立っていた。目の前にはあの郵便配達員がいる。かき集めた手紙と贈り物を配達員に手渡した。
「落ちてた」
「すべてお前宛だ。これも」
そう言うとカバンの中から二通の葉書を取り出し差し出してくる。
「天国に行けますように 沙織」
「お前に会いたい 直樹」
周りの目を誤魔化すために書いたのだろう。では自分はやはり死んだのか。
何の感情も浮かばない、悔しさも悲しみも怒りも。
「受け取れない」
「何故?」
「そいつらは……知らない奴らだから。俺の好きだった彼女はこんなことしないし、友達もこんなこと言わない。これは俺宛じゃないよ」
初めて涙がこぼれる。金に汚い友人でも、わがままなところがちょっとウザイと思っていた彼女も。でも本心は大切に思っていた。しょうがないなと思いつつも許してしまっていたのは大切な者達だったからだ。
「それなら宛先不明だな。他のは」
「前世から縁のある相手なんて心当たりないな。これも全部俺宛じゃない」
「そうか」
そう言うと配達員はすべてのものを受け取って手紙はカバンに入れる。荷物の数々は自転車の後ろの小さなカゴに入れて自転車にまたがった。
「ありがとう」
それだけ言うと配達員はどこかに去っていった。
――ああ、思い出した。確か十枚で終わりだ。
十枚に到達したら一人一人抜けていく。全員抜けて、縄を回してる人がありがとう、と言ったら終わりだ。先程の手紙や贈り物の数も足したらちょうど十個だった。
「だから『ありがとう』って言ったのかあの人……」
自分の声にパチパチと瞬きをする。すごい勢いで顔を覗き込んでくる母と妹が一気に泣き出した。
「よかった、よかったああ!」
「兄ちゃんが起きたああ!!」
あたりを見渡すとそこは病院だ。どうやら自分は助かったらしい。母がどこかに走って行き「お母さんナースコールがあるでしょ!」と妹がボタンを連打する。
死んだかと思ったが助かった。手紙を返したからだろうか? なんとなくそんなことを思っていると、バタバタと急いで来てくれた医師たちが診察を始めた。
最初のコメントを投稿しよう!