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落ち着いてから聞いた話によればとどめを刺されそうになったところで、部活帰りの高校生たちが数人駆けつけてくれたそうだ。しかも柔道部だったのであっという間に二人を取り押さえた。救急車の手配も警察も全てやってくれたと言う。四日間ほど意識不明だったので彼らへのお礼は家族ですでに済ませたということだった。
「一時期危なかったのですが、幸い腸が傷ついただけで他の臓器は無事でしたので。傷が治れば大丈夫です」
意識が戻ったということで警察も話を聞きに来た。配達員の話は省いて、今まであったことを説明する。話していてだんだん腹がたってきた。
「四日以上経ってるんだったらもうストーカー女含め捕まえてるんでしょ。何か言ってます? どうせろくなこと言ってないでしょうけど」
「いえ、ストーカーをしていた女に関しては終わりました」
「?」
家族も不思議そうに首をかしげる。自己中心的な考えの女なので、絶対に自分は間違っていないと言い張るはずだ。
「あなたに危害を加えた上山沙織と藤堂直樹は拘留していますが。今回の元凶である女については……死亡が確認されました」
「え?」
なんだか現実ではないような感じがしてそんな声をあげてしまった。女が死んだ?
「自分で自分の首を絞めたとしか思えない状況証拠が揃ってまして。ポケットには遺書のようなものが……変な内容でしたけど」
「どんな内容だったんです?」
そう質問すると警察は一瞬言い淀んだが、息を一つついてからこういった。
「死んでくれてありがとう、と」
それは、あの時配達員に返した手紙の中の一枚だ。
「筆跡からも本人が書いたのに間違いないですし、自分の名前も書かれていました。心療内科に通っていたそうなので、自分へのメッセージかもしれません。我々には理解できない何かがあったのでしょう」
そう言うと警察たちは病室を出た。母と妹はしんみりする様子もなくふんと息をつく。
「死んだ人をどうこう言う気は無いからこの話はおしまいね。さて、今後の予定についてお医者さんと相談してくるから」
そういうと母は病室を出る。
「私も同じ意見だな。あんな連中さっさと忘れて兄ちゃんは新しい彼女を作るといいよ、友達もね。今度はちゃんとまともなの選んでよ?」
「わかってるよ。なあ」
「ん?」
「お前確か郵便局でバイトしたことあったよな」
「うん、年末に。年賀状の仕分けね」
「宛先不明のやつってどうなるんだ」
「可能な限り送り主に返されるよ」
「そっか。あのさ、暇だからクロスワードとか売店で買ってきてくんね?」
「ほいほい」
そう言うと妹は病室を出る。遠ざかっていったのを足音で確認してから、ククッと笑った。
「ふ、っくく。なるほどな」
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