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何もかもうまくいくはずだったのに、どうしてこんなことになったのかと怒りで震える。
幽霊ポストの噂話をしたのは我ながら良いアイディアだと思った。疑心暗鬼に陥って簡単に行くはずだったのに、直樹が馬鹿すぎて失敗した。絶対にこのままでは終わらせない。暴れたせいで留置所は一人部屋になった。苛々して思いっきり壁を蹴飛ばす。
「?」
その時床に何かが置いてあることに気づいた。特に差し入れ等は言われていないはずだ。そもそもいつからあった、先ほどはなかったはずだ。
「なに?」
拾い上げてみればそれは手紙だ。酔った勢いで書いた隆介への手紙。死んだら適当にポストに入れようとふざけて書いたものだ。悲劇のヒロインを演じるために。
なぜこれがここにあるのか。そう思って顔を上げた瞬間に思わず悲鳴が出そうになった。目の前には真っ黒い服を着た郵便配達員が立っていたのだ。それも部屋のこちら側だ。
「宛先不明だ、返しに来た」
いつの間に、どうやって入ったの、誰か来て。そう言いたいのに声が出ない。先ほども悲鳴をあげたかったのに全く声が出なかった。
「差出人がわかっているのなら、送り主への返却は規則だ。ただし」
配達員が手をゆっくりと上げた。声が出ないどころか体が動かない。いや、自分の意思に反して両手が配達員と同じ動きをする。ゆっくりと、自分の首を掴む。力が込められていく。
苦しそうなそぶりをまったく見せない配達員はそのまま自分の首を絞めていく。
「俺は死者にしか渡せない」
――いやだ、どうして、なんで!? いやだぁぁぁああ!
「受け取りの死亡をお願いします」
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