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不穏
野依副社長と想いが通じ合った日の翌日から、他の役員や取引先の方から『私が』褒められることが多くなった。
「今回異動した秘書さんは有能らしいね! これからも野依くんを、しっかりと支えてあげなさい!」
そんな言葉が、良く耳に入って来る。
しかし何のことか心当たりが全く無くて、他の役員に詳しく話を聞いてみた。
その役員によると、どうやら元々仕事の処理が正確で早くてハイスペックだった副社長が、また更に腕を上げたらしい。
しかも、新規取引先の開拓までしちゃって。
それはもう…見違えるほど、らしい。
「…藤堂さん、ただいま」
「野依副社長…お帰りなさいませ」
外回りから戻ってきた副社長。
今日も鞄を預かり、席に運ぶ。
副社長は少しだけネクタイを緩めながら私に近づき、背後から優しく抱き締めてくれた。
「疲れた…」
「お疲れ様でした」
そっと副社長の手に触れると、身体の向きを変えられ、副社長と向き合う格好になる。
顎を優しく掴まれ、微笑みながら唇を重ねた。
「…やっぱり、甘い。藤堂さんの唇、甘くて美味しい…」
何度も重ねては離す。
啄ばむようなキスを繰り返したのち、副社長はまた私を抱き締めた。
「俺、キスが好きなんだ…」
「……」
でしょうね…。
とは、口に出せない。
「副社長になったばかりの頃、当時付き合っていた彼女とキスをしていた時に気付いたんだ。俺、キスしたら物凄くやる気に満ち溢れることに…。それからかな。彼女がいない期間も自分の仕事効率を上げるために、秘書さんにキスをお願いしていたわけ」
なるほど………とはならない。
そういう発想になるのも凄いし、受け入れた当時の秘書も凄いと思う。
副社長の言葉になんて答えたら良いのか分からなくて、無言で頷いてみる。
「…頭おかしいでしょ、そう思っていいよ。自分でも分かっているから。…だから、秘書さんが1か月も経たずに辞めていくこと、仕方ないと割り切っていた」
「でも…初めてだ。藤堂さんが辞めると言った時…酷くショックを受けた。いつの間にか、秘書さん以上の存在になっていたんだろうな…」
そう言いながら、また優しいキスをする。
「好きだよ、藤堂さん…」
「私もです…」
お互い言葉を交わし、もう一度キスをしようとすると…ノックの音が鳴り響いた。
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