既知

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既知

副社長に好きだと言われてからも、特に変わりのない毎日。 『仕事』でキスしていた頃とそんなに変わりはない。 私はただひたすら、副社長に唇を吸われ続けるだけ……。 「今日は戻らないかもしれないから、定時過ぎたら帰って良いからね」 「かしこまりました。副社長、お気を付けて」 そんな会話をしたのは、今朝の話。 1日ずっと外に出るというのも珍しいと思いつつ、広い副社長室で1人気楽に仕事をさせて貰っていた。  コンコンッ 「どうぞ」 「失礼致します」 夕方、もうすぐ定時かと言う頃に鳴り響くノックの音。 入って来たのは、総務部の緋山さんだった。 …またか、心の中で密かにそう思う。 「藤堂秘書、お疲れ様です」 「…お疲れ様です。どうされましたか」 「今日はずっと副社長が居ないとお聞きしたので、参りました」 「……」 誰かに副社長が1日不在ってこと、伝えたっけ? 対応で『現在外出中』と言うことはあるが、1日不在ということを基本的に私は言わない。 「…副社長のご不在、どこでご存知に?」 「今朝、副社長ご自身が総務部長にお話しされていましたよ。その会話が聞こえてきましたので」 「………」 何で、総務部長? 考えても良く分からなくて少し首を傾げる。 緋山さんはそんな私を見ながら、嬉しそうに微笑んでいた。
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