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「…緋山さん、何でしょうか。というか、ご用件は何ですか」
「仕事の用事では無いんです。藤堂秘書……藤堂さんと、個人的にお話をしたかっただけです」
「………」
「僕、藤堂さんのことが好きです。だから、接点が欲しかったんです」
…この人は、急に何を言い出すのか…。
目を見開いたまま脳がフリーズしてしまい、次の言葉が出て来ない。
「僕、知っています。野依副社長が秘書さんにキスをしていること。…ずっと想いを寄せていた藤堂さんに辞令が出た時、まずいと思い焦ったのですが。やっぱり、それは藤堂さんも例外ではありませんでした。…好きな人が、『仕事』と言う名目でキスされているのですよ。…耐えられません」
「………」
緋山さんとは同期なわけでも無ければ、同じ部署だったわけでも無い。
接点が無さ過ぎて、どうしてこんな展開になるのか1つも理解が出来ない。
だけどそれ以上に、副社長が秘書にキスをしているという事実を、何故緋山さんが知っているのかが気になった。
「…副社長のこと、どうしてご存知なのですか」
「数か月前の秘書さんの時、偶然見て聞いてしまったからです。そこから不定期に副社長室に行っては、“事実確認”をしていました」
「………守秘義務というものが、あります」
「だから誰にも言っていませんよ。僕の心の中に留めています」
そういう問題ではない。
…しかし、本当に副社長が居ないタイミングを狙ってくるなんて。
この人…何だか怖い。
「あと、藤堂さん。貴女が副社長の彼女に昇格したことも、知っています」
「え?」
「…ですが、考えて下さい。立場や身分が全く違う2人。釣り合うと思いますか?」
「………どこで情報を仕入れるのですか…」
「どこって、そこに立っているだけです」
そう言って副社長室の扉を指差した。
「………」
今日ほど、副社長に居て欲しいと願ったことは無い。
「とにかく、藤堂さん。副社長では釣り合いませんから、僕とお付き合いしてみませんか。どうしてもそれを伝えたくてタイミングを図っていたのですが、今日は副社長が不在で良かったです」
…やっぱり…言葉が出てこない。
釣り合うか、どうかなんて。
そんなの…釣り合わないって分かっている。
だけど、緋山さんに言われる筋合いは無い。
「その様子、言葉が見つからない感じですか? 可愛いですね、藤堂さん。貴女と副社長より、僕の方が釣り合います」
少しずつ距離を詰めて来る緋山さん。
どうすれば良いか分からなくて呆然としていると、勢いよく副社長室の扉が開いた。
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