副社長秘書

1/2

135人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

副社長秘書

「ただいま戻りました」 「藤堂さん、遅かったね」 「すみません」 副社長室に戻り部屋に入ると、副社長は少し心配そうな表情を浮かべていた。 先程の緋山さんの言葉が気になって、心がモヤモヤする。 けれど、この話は副社長には話さなくて良いこと。 気付かれないように、いつも通り振る舞う。 「副社長、夕方からの会合ですが、冨田専務が急遽参加できなくなったそうです。代理として原川常務がご出席されます」 「分かった、ありがとう」 そう言いながら私に近付いてくる副社長。 「……」 そっと顎を掴み、優しくキスをした。 「…茉佑を、補給」 熱く蕩けそうなキスに足が震え始める。 副社長は私の腰を支えながら、何度も何度もキスをした。 「甘くて、美味しくて、気持ち良い…。茉佑、好き」 「副社長…私も好きです」 その言葉に副社長の動きは更に強くなる。 舌が絡む度に水音が響いて心拍数が更に上がって来た時…。  ガタッ!! 「!?」 扉の外から大きな音がして、反射的に私と副社長は離れる。 「…誰だ!」 大声でそう問うと、また外から物音が聞こえた。 副社長は大股で扉に近付き、勢いよく開ける。 部屋の前には、まるで腰を抜かしたかのような緋山さんが座り込んでいた。 「…緋山くんか」 「ふ、副社長……」 緋山さん……。 受付に用事があるって言ってなかったっけ? あの後すぐに追い掛けて来たってこと? 緋山さんの手には小さな機械が握られている。 それを見た副社長は、呟くように声を出した。 「…それ、盗聴器」 「………」 「『俺の城』の前でそれを持って、何してんの?」 「………」 唇を噛み、険しい表情の緋山さんはゆっくりと立ち上がり、副社長のネクタイを引っ張った。 「………緋山くん。君、本当に良い度胸しているよね」 「…副社長だか何だか知りませんけど、僕はずっと昔から藤堂さんのことが好きだったんだ! 途中で急に現れた男に取られてたまるかよ!!」 「………」 副社長は緋山さんの腕を掴み、酷く振り払う。 そして凄く冷たい目をして、逆に緋山さんのネクタイを引っ張り返した。 「昔から好きだったとかそんなこと知らないけど、急に現れて勝手なことしないでくれる? 今は俺のだから」 「……っ!!」 ネクタイから手を離し、勢いよく緋山さんの体を押した。 「……藤堂さん。俺、前職の時に藤堂さんと面識がありました。前の会社で総務部に居た時、商品の営業でやってきた藤堂さんとは、何度もお話をさせてもらいました」 「その時から、貴女のことが気になっていて…。ある日、ここの求人が出ていることを知ったんです。…藤堂さんと同じ職場で働きたいと思って…転職してきた次第です」 唐突に始まった、過去の話。 ……営業なんて、莫大な数の会社に赴いた。 うちと契約をして下さった会社様とは、その後のやり取りがあるから記憶があるけれど…。緋山さんについては全く覚えがない。 おそらく、営業をしに行っただけで…契約はしていないんじゃないかな。 「……緋山さん。申し訳ありませんが、全く覚えていません」 「…だよね、そうですよね……」 そう呟きながらフラフラっと、副社長室を出ようとする。 そんな緋山さんを副社長は呼び止めた。 「待て。君はその盗聴器をどうするつもりだったのか、説明しなさい」 「…………盗聴しかないですよ。これを廊下に設置して2人の会話を聞いて、邪魔をしようと思っていただけです」 「緋山くん……覚悟しときなさい」 「……」 副社長の言葉に返事もせず、緋山さんは部屋から出て行った。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加