秘書の『仕事』

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「副社長、本日は大山産業の専務様が10時に来社されます。その後、11時半に中谷工業の社長様が来社され、そこで御一緒に昼食です。お昼の手配は済んでおります」 「分かったよ。ありがとう、藤堂さん」 副社長は少し捻れたネクタイを結び直しながら私に近付き、おでこにそっとキスをした。 「……………」 仕事だから。 耐えろ、耐えろ……自分。 私の場合、キスが嫌なわけではない。 恋人同士だと錯覚をしてしまいそうになることが問題だ。 こんなに甘いキスをされ続けると、勘違いしてしまう。 「…おでこで我慢しようと思ったけれど。………藤堂さん、ごめん。書類片付ける前に、唇吸わせて…」 「えっ」 ま、まただ。 私に有無を言う選択肢は無い。 きつく縛ったネクタイから手を離し、蕩けそうな瞳をした副社長は、そっと私に近付いて来る。 その表情は、反則でしょ……っ!! 優しく唇を重ね、次第に私の唇を軽く吸い始める。 副社長室に響く水音。 その音が耳に入り、脳が溶けそうな感覚を覚えた。 こんな状況…万が一誰かが尋ねて来たらどうするつもりなのだろうか…。 「んっ……藤堂さんの唇…甘い。いつまでも、吸い続けたいと…思っちゃう…」 「………」 そう呟きながら唇を甘噛みし、舌を絡める。 「…はぁ、甘い…」 「………」 やばいよ…本当に…。 「いつまでも、こうしていたい…」 「………」 …歴代の先輩秘書さんたちへ。 野依副社長の秘書になられた皆様が、どうして1か月経たずに辞めていくのか、非常に不思議でした。 けれど、今なら私にも…その理由が分かります。 ……この『仕事』は… 色んな意味で、想像の何千倍も…大変でしたね………。 心中お察しします。 さて、私。 藤堂茉佑は、独身で彼氏がいないということもありますから。 みなさんを上回るべく。 この秘書の『お仕事』。 まずは1か月耐える、ということを目標に…頑張ってみようと思います――――。 そう、心の中で…先輩方に語り掛けた。
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