罪な人

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「あ、茉佑。久しぶり!」 「凛子(りんこ)~、久しぶり」 用事があって向かった他部署からの帰り道。 副社長室に戻るためエレベーター待ちをしていると、私が元々いた営業本部所属の同僚と会った。 「茉佑、ずっと聞きたかったの。副社長の秘書はどうなの。もう辞めたかったりする?」 食い気味にそう聞いてくる凛子。 悪魔のような辞令を受けた私。 そりゃ…気になるのも仕方ないと思う。 「…守秘義務があるから、詳しくは話せないんだけど。まだ、大丈夫。営業本部とは比べ物にならないくらい大変だけど、辞めたいという感情はまだないかな」 「そうなんだ。まぁ元々、茉佑は堪え性があるからね。副社長の元でもやっていけるんじゃないかなって、営業本部で話してたの」 「そうね……耐えるのだけは、どうにかね」 凄いよ〜…なんて言いながら凛子が頷いていると、私が乗るエレベーターが来た。 「じゃあ、凛子。また今度ご飯でも行こ」 「うん、絶対行こう! 茉佑、無理せずに頑張ってね!」 凛子に手を振り、エレベーターの扉を閉める。 …うん。 私、頑張った。 何も違和感を覚えさせず、上手く受け答えが出来たと思う。 エレベーターを降り、副社長室がある階に戻ると、部屋の入口前に1人の男性が立っていた。 「あ、藤堂秘書」 その人は私の姿を見つけ、駆け寄ってくる。 「総務部の緋山(ひやま)です。急ぎで副社長に決裁印を頂きたくて、待っていました」 「そうでしたか。お待たせして申し訳ございませんでした。しかし現在、副社長は外出されております。夕方頃になるかと思いますが、宜しいでしょうか?」 「大丈夫です。宜しくお願い致します」 私に向かって深く頭を下げ、去っていく緋山さん。 書類ボックスを置いているのだから、メモ書きをして入れておいてくれたら良いのに。 いつ戻るか分からない私を待っていたことに、少し違和感を覚えた。
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