罪な人

3/3

132人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
「ただいま、藤堂さん」 「野依副社長…お帰りなさいませ」 部屋に入ってきた副社長から鞄を預かり、席に運ぶ。 副社長の顔には、いつになく疲労が滲み出ていた。 「本日もお疲れ様でした」 「ありがとう、藤堂さん」 そっと私に近づき、重ねられる唇。 また蕩けそうな副社長の瞳に、吸い込まれそうな感覚がする。 今までの歴代秘書さんたちにも、こんな感じだったのかな。 もしその秘書さんが既婚者や彼氏持ちだったとしたら…。 なんて…その先は、考えまい。 1つ言えるのは。 副社長、なかなか罪な人だ。ということだけ。 「唇…甘い」 貪るように吸われ甘噛みされ…今日もまた水音が響く。 …いつも思うけれど、『甘い』ってなんだろう。 別に何か食べているわけでもないし、リップを塗っているわけでもない。 副社長の言う『甘い』が良く分からないでいた。 「藤堂さん…。俺の頭、撫でて」 「えっ?」 「お願い、藤堂さん…」 そう言いながら私の左肩に頭を置く副社長。 嘘でしょ…。 有り得ないくらい心拍数が上がり、体が熱くなる。 当の副社長は頭を置いたまま、微動だにしない。 「…そ、そのようなご所望は…業務内容にありません」 「じゃあ…分かった。藤堂さん、頭…撫でて。これは、仕事です……」 仕事と言われたら、私には拒否権が無い。 「……はい、副社長。…分かりました」 震えを押さえながら、右手をそっと副社長の頭に乗せる。 ふわっとした髪に胸がときめく。 そんな副社長の頭を、ぎこちなく撫でた。 「…藤堂さん、ありがとう。気持ちいい…」 大人しく私に撫でられる副社長。 暫く撫で続けていると、満足した様子の副社長は顔を上げ、また私に濃厚なキスをした…。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加