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副社長
野依副社長の秘書になって、1か月が経った。
とりあえずの目標だった、1か月。
その日を無事に迎えられたことを嬉しく思う。
しかし、その反面。
いつ仕事を辞めようか。
最近の私は、そんなことを常々考えていた。
「…藤堂さん……唇、美味しい…」
「……」
今日も変わらず、私の唇を吸う副社長。
この1か月間、出勤の日は毎回キスをした。
副社長は飽きもせず、甘い、美味しいと言葉を発しながら私と唇を重ねる。
…そんな、”たったそれだけ” の行為に、私は堪えられなくなってきた。
『仕事』だと分かっているのに。
気持ち良くて、副社長に触れたくて、仕事ではなく、私個人として触れて欲しくて。
キスが気持ちいいのは勿論だが。
それ以上に、野依副社長は本当に優しくて…。
通常の仕事でもその優しさに触れ、いつの間にか『野依直哉さん』個人に対する特別な感情が、私の中で沸き上がっていたのだった。
「気持ちいい…甘い…」
唇を吸いながら時折舌を絡めて、水音を部屋に響かせる。
…このキスは、仕事だから。
そう分かっているのに、どうしても…副社長の特別になりたいと願う自分がいる。
しかし特に家柄も無く、一般家庭で育った私。
副社長の特別になりたいなんて、本当はそう思うこと自体間違っている。
だから…これ以上感情が抑えられなくなるのを前に退職をして、副社長から離れなければならない。
そう、強く思っていた…。
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