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意外な展開……
11時半 浜中商事 社長室。
「浜中社長! この度は、本当にすみませんでした」
黒木は、社長である浜中拓斗に向かって、深々と頭を下げる。
「黒木さん! 頭を上げて下さい。それに、今回のことは黒木さん。貴女がたのせいではありません!」
同席していた工場の隈部戒斗が頭を下げる黒木に、貴女がたのせいではないと返事を返す。
「それは違います!」
隈部の言葉に、黒木は、慌てて頭を上げる。
「いえ。今回のことは、全て、私が社長に一切の相談せず、私、個人の勝手な、判断で、黒木さん達の取材を受けことが一番の問題です」
最初に、バニラアイスどう焼きを取材をしたがったは、間違いなく、黒木達「晴海」」側だ。
だから、全ての責任を隈部さんに押しつける訳にはいかない。
「隈……」
黒木が、隈部の名前を呼ぼうとしたら、
「隈部君の言う通りだよ! 黒木さん。きみたちはなにも悪くない」
「……浜中社長?」
黙って黒木の謝罪を受け入れていたはずの浜中拓斗、いきなり立ち上がり、黒木の前までやってくるなり、頭を下げる。
「黒木さん。私こそ、事情を知らなかったとはいえ、会社にまで、クレームの電話を入れてしまって本当に申し訳なかった」
「あぁああぁあの」
突然の出来事に黒木は、どう対応すればいいのか解らず戸惑う。
そんな黒木に、浜中は優しく話しかける。
「黒木さん。バニラアイスどら焼きは、美味しかった?」
「あぁあはい。とくに、餡子とバニラアイスのバランスが最高でした。あぁすみません」
謝罪にきたのに、なんに素直に「美味しい」って言ったんだ!
黒木は、自分の左手を叩きながら、二人に謝る。
「ふっふ」
「浜中社長!」
自分の言葉に、突然笑い出した浜中に、黒木は、彼の名前を呼びながら、ヤバいと心の中で叫ぶ。
しかし、そんな黒木の感情は、隈部の言葉によってすぐに消え去った。
「黒木さん。バニラアイスどら焼きが、わが社の新商品として、7月から店舗で販売されることになりました」
「本当ですが! おめでとうございます!」
「ありがとうございます。これも全部! 黒木さん達、晴海さんのお陰です」
「私達はなにもしてません! むしろ、私達のせいで、浜中商事さんには迷惑を掛けてしまって申し訳ありません」
「そんなことはありません! 晴海さんにどら焼きのことが掲載されたことで、私は、社長に自分の本当の気持ちを告げることが出来たんです。勿論、やり方は、間違ってたと思います」
「そうだぞ! 言いたい事があるなら、私に直接言え! けど、今回のことは、私自身にも問題があったと思う。だから、黒木さん。今回は、雑誌にうちのバニラアイスどら焼きを載せてくださってありがとうございました」
「……浜中社長」
涙が溢れてくる。
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