ほろ苦い

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8年前 黒蝶編集部(小泉璃菜:22歳) 「今日から、うちで1ヵ月インターンをする大学生の小泉璃菜さん!」  将来、大手の出版社で、編集者として働くことを希望していた私は、大学の長期休暇を利用して、同じく、出版社で働くことを希望していた胡桃と一緒に雫丘出版で、1ヵ月インターンをすることにした。  胡桃は、小説や漫画を読むのが好きなので、文芸雑誌の編集部(ここみ)を希望し、希望通りの部署で、1ヵ月インターンをすることができた。  その一方で、自分は、雑貨や食べものを主に扱う「晴海」編集部をインターン先に希望していたのだか、何故か希望とは真逆の政治、経済を扱う「黒蝶」編集部で、インターンをすることになってしまった。 「小泉璃菜さん。今日から、1ヵ月よろしくお願いします」  編集長の藤原奏(元黒蝶編集長)の紹介に、私は、自分でも自己紹介をして、頭を下げる。 「小泉さんは、将来、出版社で編集者と働くことを希望している。もしかしたら、近い将来、お前らのライバルになるかもしれないぞ!」 「藤原さん!」  藤原の言葉(冗談)に、私は堪らず、やめて下さいの意味を込めて彼の名前を呼ぶ。  しかし、そんな私の言葉をかき消すように、私の前に、一人の男性がやってきた。 「……お前、なんで編集者になりたい?」 「えっと? 読む人を楽しませたいからです」  突然の問いかけに驚いながらも、その男性に向かって、編集者になりたい理由を答える。  しかし、返ってきた言葉は、 「甘いなぁ」 「それってどう意味ですか!」  私は、男性の発言に、怒りを覚え、どういうことですかと理由を尋ねようとしたら、 「ちょっと堂城君! 小泉さんになに言ってるの! ゴメンねぇ小泉さん!」 「あぁいえ!」 「ほら! 堂城君! きみも謝って! ほら! 早く」  藤原編集長から堂城(25)と呼ばれた男性は、一瞬、不機嫌そうな顔をしたが、 「すみませんでした」  そして、そのまま何事もなかったかのように、自分のデスクに戻って行った。 「……小泉さん。本当に、良かったの? 今ならまだ……」 「藤原さん! 私なら大丈夫です! それに、堂城さんの言う通りです! 私、編集者の仕事を甘く見てました! だから、この1ヵ月で色々勉強させてください!」  晴海編集部でのインターンを希望したのに、その希望が通らなかった理由は、当時晴海の雰囲気が今ほどよくなかったから。  そして、退職が出たばっかりで、新人を募集していた「黒蝶」の藤原湊編集長が、偶然、インターンを聞きつけ、だったら、うちで引き受けてもいいですかと? 当時、雫丘出版の編集長だった竹畠圭太編集長に直談判し、私は、急きょ「黒蝶」でインターンをすることになった。  けど、いま思うと、あの時、「晴海」ではなく堂城副編集長がいたあの時の「黒蝶」でインターンをすることが出来て本当によかったと思う。  私の宣言に、藤原編集長は、小泉さんと小さな声で私の名前を呼びながら、  「こちらこそ、1ヵ月よろしくお願いします」 ★           
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