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演じてる?※
西園寺の腹ごなしはいつ終わるのかと、私は落ち着かない気持ちで浴室へ向かった。まるで私の方が西園寺に溺れているような気分にさせられて、そんな気持ちをリセットしたくて勢いよくシャワーを浴びた。
備え付けの有名ブランドのアメニティを使うと、その品の良い香りに気分が落ち着く。西園寺の身体に溺れているのはその通りだと自然笑いが込み上げてきて、肌を包むきめの細かな泡を浮かれた気分で身体に広げた。
その時浴室のドアが開いて、全裸の西園寺が姿を見せた。今まで一緒にシャワーを浴びた事などなかったせいで、思わず手を止めて唖然としていると、西園寺は余裕ぶった顔をしてあたかもそれが当然と言わんばかりに私の身体の泡を更に塗り広げた。
「俺の得意なのは何もベッドだけではないですよ。…まったく、子供みたいに泡だらけで困った人ですね、葵は。」
急に距離を詰めてきた気がしたものの、ここであまり動揺した様子を悟られるのは年上としてのプライドが許さなかった。だからその時の私は過剰反応し過ぎてしまったとも言える。
甘く喘いで西園寺に好きな様にさせながらも、二人についた泡が流されたのを見計らって、私は西園寺を壁際へ追い詰めてその股間へ手を伸ばした。
「そう言いながら我慢も限界なんじゃない?この可愛い子にご褒美あげようか…。」
明らかにぬらついた手触りにほくそ笑んで、私は畳んだバスタオルを床に放ってその上にひざまづいた。目の前に、すっかり猛り切った西園寺そのものが期待に震えている。
片手でそれを掴んで、私を凝視する西園寺の眼差しを見つめ返した。唇全体を使って何度もなぞれば、自然西園寺の口元も息づかいを荒くして開いた。
頃合いを見て今度は舌先を硬くして、血管の浮き出た敏感なそこを狙って強弱をつけて舐った。今までの欲望を共にした相手から評判の良いその舌使いは、期待通りに西園寺の息をますます荒くした。
とは言え、口いっぱいに頬張ると大き過ぎてとてもじゃないが喉奥まで挿れられないせいで、私は少し涙目になりながらゆっくりと交わりを想像させるように様に顔を動かした。
「…っ、良い…。」
ため息混じりの掠れた声が西園寺の唇から漏れる頃には、私の口の中は痺れて感覚が無くなり始めていた。それは同時に恍惚とした気持ち良さも感じ始めていて、私は無意識に後ろの窄みへ空いた手を伸ばしていた。
後ろを指で宥めながら、すっかり夢中になって西園寺の味を楽しんでいると、ビリビリとした振動と一緒に一段と太くなったその先端から弾ける様に甘いそれが口いっぱいに広がった。
目の前のアルファのむせかえる匂いで興奮した私は、お尻を突き出した体勢で自分の指をぬるついた窄みに更に深く押し込んだ。押し込まれる気持ち良さにも呻きつつも、望む様な強い快感が与えられないせいで欲求不満を感じて顔を顰めた。
「…何てだらしない顔なんだ。」
そう掠れた声で囁くと、西園寺は私の口の中から自分のものを引き出した。それから自分の出した白濁を掻き出すように口の中を優しく指で何度かなぞった。私はされるがままに西園寺にシャワーでもう一度綺麗にされると、抱き上げられてベッドへと連れて行かれた。
歩けたかもしれないが、興奮で震えていたのを考えるとやっぱり歩けなかったかもしれない。
ベッドに腰掛けた西園寺の膝の上に対面で抱えられたまま、私は甘やかされる様に口づけを受けていた。欲求不満の身体はもっと別な事を願っていたけれど、一方でこうして宥められるのも悪くないと首に手を回して、何度も啄む様な口づけを交わした。
こんなのは恋人同士のやり方みたいだと、恋もした事がない私は映画の主人公になった気分でその役を演じた。だから西園寺が私をじっと見つめて、まるで初めて見た様な表情を浮かべるのも、彼もまた同じ感覚に陥っているのではないかと思った。
今はお互いにロマンチックな気分でそんな役回りを演じて、だから私たちは恋人のように愛し合っても良いのだと言い訳をしながら、見つめ合ったままもう一度強請るように何度も唇を合わせた。
とは言え私の興奮は高まって、欲求不満の呻き声まで上げる始末だった。いやらしい水音を立てて西園寺の指で掻き混ぜられる頃には、私は彼の逞しい肩を掴んでベッドに膝立ちのまま、腰を振って長い指を身体の奥へと誘導していた。
「俺の婚約者はこんなに貪欲でいやらしい…。」
西園寺の呟きは耳を通り過ぎて、私は目の前のすっかり馴染んだ匂いのアルファを身体の奥へと欲しがった。
「挿れて…。お願い、政宗…。」
どうして名前を呼んだのか、呼べと言われたからそうしたのか、私が懇願すると政宗は舌打ちして狙いを定めると、私を下から一気に突き上げた。やっぱり一瞬息の止まるその衝撃を味わう間もなく、休みなく突き上げられて、私はその与えられる快感を貪った。
胸をギュッと摘まれて、私は嬌声をあげて終わりのない気持ち良さを強請り続けた。それから痺れるような絶頂へと放り出された私は、政宗に縋りつきながら身体を震わせた。そして政宗もまた息を詰めて私の肩に歯を立てながら何度も腰を突き出した。
ぐったりと政宗にしなだれかかると、政宗も大きく息を吐き出して私を抱えたまま転がるようにベッドに倒れ込んだ。疲れ切った私は目が開かなかったけれど、瞼に唇を押し当てられた感触がして、ますます目を開ける訳にいかなくなった。
きっと今政宗と目を合わせたら、顔が赤くなってしまいそうな気がしたからだ。
ああ、バカな事を考えたものだ。いくらロマンチックになるといっても、あんなキスをした後ではバツが悪過ぎる。政宗は私にとって都合の良い、身体目当ての婚約者なのに。
結局私は疲れたふりをして、政宗が起き上がるまで腕の中で目を閉じ続けた。
…本当嫌になる。こんな複雑な気持ちになるのは望んでいないのに。
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