優一side西園寺の見合い相手

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優一side西園寺の見合い相手

 僕はイライラとスマホをスクロールして舌打ちした。最近西園寺にメッセージを送っても既読無視だ。それどころか何日も既読にもならない事も多くなった。  いくら忙しくても以前ならそこまで放っておかれることはなかった筈だ。僕が音を立ててテーブルにスマホを置くと、遊び仲間の亮太が僕をチラッと見た。  「随分ごきげん斜めだな。綺麗な顔が台無しだ。御曹司に振られたか?あんな金蔓に貢がせただけでも立派だと思うけどな。大体優一はΩでもアルファでもない凡人のβじゃないか。あまり欲張ると全てを失うぜ?」  僕はスマホの鏡面に映る自分の顔を左右に動かして呟いた。 「ここに一本ずつ糸入れてメンテナンスしたいのに。あいつ結構ケチなんだよ。西園寺グループのくせしてさ。愛人に小遣いぐらいよこせっての。」  すると亮太がウォッカを煽りながら笑った。 「最近財布貰ってただろ?あれどうしたんだよ。結構良い値段だよな?」  僕はバックからバッタモンの同じブランドの財布を取り出して亮太に見せた。 「もうとっくに換金済みだよ。うちの親も僕が遊び回ってるからお小遣いくれなくなっちゃってさ。ケチでしょ、まったく。」  亮太は僕をドラ息子だって指差してゲラゲラ馬鹿みたいに笑い続けた。あんまり笑うから、僕は変な薬でもやってるのかと思って店を出ようと席を立った。 「なぁ、ドラ息子に良いこと教えてやろうか。西園寺グループが今度如月コーポレーションと資本提携するって噂だぜ。きっと見合い相手は如月家の子供だな。確か男のΩがいるって噂だから。男でもΩなら子供産めるだろ?それこそ上澄み同士の話だ、お前の出る幕じゃないさ。」  僕の顔が引き攣ったのを、またおかしそうに笑う亮太から離れて、僕はムッとする繁華街の夜道に出た。まだ遅くない時間なので、二次会へ行こうとする酔っ払いの集団が通りを塞いでいる。  僕は顔を顰めて、これからどうしようかと当てもなく通りを歩いた。  酔っ払いが次々に声をかけてくるけど、僕はそこらの庶民を相手にするほど落ちぶれてはいない。西園寺政宗は僕にとっては自慢の愛人だったのに、今やその関係も終わりそうだった。  「…如月?随分大物じゃん。」  所詮小さな貿易会社の社長の息子である自分とは、まるで世界が違う話だ。西園寺グループは誰でも知っている名家だし、如月コーポレーションは何の会社か知らないけれどテレビCMでよくスポンサーになっている。  信号待ちをしながら、僕は西園寺の見合い相手の画像をネットで探した。情報統制しているのか、全然それらしきものは出て来なかった。僕はその手のことに詳しい友人のアドレスを探った。西園寺の見合い相手の顔をどうしても見たかった。  僕より綺麗なら諦めもつくってものだ。もしそうでもなければ、きっと西園寺だって見合い相手の機嫌をとるのに疲れて僕と会いたくなるだろう。  都会の閑静な街角にひっそりと佇むカフェは、街に溶け込んでいて知らなければ通り過ぎてしまいそうだった。そう言う意味では一見さんお断りといった雰囲気のあるカフェは、耳に心地良いチャイムを鳴らして、入れば案外広くて居心地良さそうな空間が広がっていた。  悪目立ちしない様に、いつもより地味目な格好で来る必要もなかったかもしれない。  優しげな笑顔を浮かべた女性店員が僕を席に案内した。僕の記憶にインプットした如月葵らしき人物は残念ながら店には出ていない様だった。あんな大きな企業の御曹司のくせに、大きいとは言えないこじんまりとした自分の店を持って、実際に切り盛りしているなんてちょっと僕には信じられない。  運ばれて来た美味しいコーヒーを飲みながら、僕はやっぱり形ばかりのオーナーなのだろうと、金持ちの道楽である店を見回した。丁度その時、店の奥からギャルソンエプロンをつけたスラリとした男が顔を見せた。  店員達が彼ににこやかな顔を向けている。眼鏡を掛けていてはっきりとした顔はわからないけれど、柔らかな物腰で微笑んだ男こそ如月葵だと気がついた。報告にあった年の感じもぴったりだ。  そしていかにもなΩではないけれど、シャツの襟から微かに覗くネックガードが彼を如月だと証拠づけた。  僕は飲み切ったコーヒーの代わりにテーブルのお冷を飲みながら、見つめすぎない様に如月を観察した。御曹司かもしれないが、如月はΩとしては平凡だ。下手すると僕の方が綺麗なんじゃないだろうか。  金持ちほどメンテナンスすると思っていたけれど、そうでもないのかな。僕はニヤリと笑うと、伝票を手にレジに向かった。丁度如月自身がレジに立って、僕の対応をする所だった。  僕は待ち受け画面を彼に見せつける様にしてからスマホで決済した。一瞬彼の目が僕のスマホを見た気がしたけれど、彼はまるで何も感じない様に微笑んで礼を言って僕を送り出した。  店の外に出た僕は、機嫌良く自分のスマホの待ち受け画面を見た。ああ、こんな事もあろうかとこれにしておいて正解だった。そこにはベッドで撮った半裸の自分と西園寺の写真をはめ込んでおいたのだから。 「さて、何か言ってくるのが楽しみだな。僕を無視なんかするせいだよ、西園寺。」  僕は鼻歌混じりで歩き出した。ああ、最高に楽しみだ。
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