亮太side優一

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亮太side優一

 俺の遊び仲間の優一は、βのくせにお高く止まっている奴だった。  この社会には、歴然としたヒエラルキーがあって、アルファとオメガ、それ以外という構造になっている。それ以外と言うのは、俺や優一の様なβのバースを持つその他大勢だ。  昔はオメガも随分生きにくい時代があったみたいだったけれど、今はそんな事は全然無い。アルファとオメガが結婚して子供を作ると、ほぼアルファかオメガしか生まれないという事が統計で証明されて、優秀な後継者の欲しいアルファがオメガと番う事が増えたせいだ。    オメガはオメガで、少数な上に特有の発情期を抑えるのにアルファと番うしか手立てがないせいで、βに見向きもしない。まして彼らは総じて男女問わず美形なので、俺たちには高嶺の花でしかない。  だからその他大勢のβである俺たちは、アルファとオメガ、彼らの眼中にはない。結婚は。  ただ、束の間の遊びでオメガは兎も角、アルファがβと付き合ったりする事は少なくはないので、優一の様にちょっと勘違いしたβがアルファを狩りにいくのはよく聞く話だ。  遊びでも金回りの良いアルファと一緒に過ごすと贅沢できるので、一度味を占めたら優一の様に顔を弄ってオメガ仕様にしてまでもその旨みを吸いたがる。  俺が優一と知り合ったのはよく行くクラブだった。当時から優一は派手な振る舞いと、βにしては綺麗な顔で目立っていた。流行りのファッションネックガードをしていたからオメガと勘違いする者もいた。 「お前βなのにどうしてオメガみたいに振る舞うんだ。」  顔見知りになってから、俺は優一に聞いた事がある。すると優一はで先週よりぷっくり膨らんだ唇を尖らせて目を細めて俺を見た。  「知らないの?アルファはオメガが好きって訳じゃ無いよ。どっちかと言うと自分をコントロール出来ない相手だと感じて嫌がっているアルファも多いんだよ。  でも本能ではオメガを無意識に求めてるって訳。  学生の頃、僕はそんなアルファを何人も見て来たんだ。僕はアルファ好みのオメガに似た、でも自分には影響を及ぼさない安全なβって訳。アルファはお金持ちだし、絶倫だし、付き合わない理由無くない?」  そう言ってニンマリ笑った優一が、それからしばらくして西園寺グループの御曹司と時々一緒に居るのを見かける事が増えて、宣言通り優一が大物アルファをものにしているのを見て、正直すげぇと思った。  学生の頃の同級生らしいが、西園寺の御曹司も優一の言うオメガ嫌いのアルファの一人なのかもしれない。  優一の持ち物がますます派手になっていくのを眺めながら、俺はある意味この分かり易いβの男を応援していたのかもしれない。この世界の上澄みであるアルファから、まるで相手にされない俺たちβの諦めと悔しさの様なものを晴らしてくれているのだから。  とは言え、西園寺グループの縁談が持ち上がったのを噂で聞いて、俺は優一の下剋上もこれまでだと思った。実際パタリと優一が相手にされなくなったのは明らかだったし、イライラしている優一の綺麗な顔が醜く歪むのを見て、性格が良ければ愛人くらいにはなれたんじゃないかと、酔ってたせいもあって本人にも言ったくらいだ。  そんな事があってからしばらくして、久しぶりに会った優一は妙に機嫌が良かった。 「ご機嫌じゃん。もしかして御曹司が会ってくれたのか?」  ジトっと俺を睨んだ優一は、それでも怪しい笑顔を見せて言った。 「そうじゃないけどね。如月のオメガ、案外冴えないんだよ。ぼんやりしてさ。西園寺も可哀想に。やっぱ政略結婚ってそんな相手を押し付けられるのかなぁ。西園寺が俺を呼び出すのも直ぐかもね?」  どんなオメガだってそこそこ綺麗だろうと思ったが、機嫌の良い優一に水を注しても沸騰して火傷するだけで良い事はない。俺は調子を合わせて優一に酒を奢って貰った。こいつは金持ちのボンボンだから、煽てておけば案外扱い易いんだ。  そんな優一との会話をすっかり忘れていた頃、クラブで仲間達と飲んでいて優一の事が話題に上った。そう言えば最近顔を見ていない。すると事情通の一人がニヤリと笑って、声を顰めた。 「噂だけどな、聞く?  あいつヤバい相手を怒らせたみたいだ。あいつが普通の庶民なら夜職に沈められたくらいだろうが、顔いじってたろう?借金が相当あったみたいだ。裏社会に目をつけられて、親からも絶縁されたって聞いたぜ。  今はそっちの系列の風呂で仕事させられてるらしい。結構綺麗な顔してるから、人気あるみたいよ。でも自分じゃ抜けられないんじゃないの?」  俺はそれを聞いて、チラッと西園寺の御曹司の事を思い浮かべた。優一が西園寺の縁談相手に何かちょっかいをかけたとしたら、怒らせた相手というのは西園寺グループかもしれない。  この世の中で怒らせたら怖いのは、ヤクザよりあの手のアルファ軍団だって皆が知るところなのに。優一はいっときの愛人になった事で勘違いしてしまったのかもしれない。  俺は優一のテカテカ光っていた唇を思い出して、ハイボールを一気に飲んだ。  あいつが風呂に沈んだのは自業自得だけど、まぁえっちな事は好きだったから楽しくやってるのかもしれない。人気があるなら籠の鳥だとしても多少は贅沢も出来るだろうし。  それに案外したたかだから、裏の力のある相手の愛人になるとかして這い上がって来そうだ。  この眠らない街にはその手の話は幾つも転がっている。優一もそんな話の主人公になっただけの話だ。俺も直ぐに忘れる様なね。  
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