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西園寺政宗side縁談※
「ああっ、もうダメっ!」
甘く喘ぎながら振り返る優一を抉りながら、政宗は収まりのつかない欲望を叩きつけていた。とは言えもう三度目になるこの交わりで優一が限界なのは見て取れた。
政宗はこれが最後と優一の細い腰を掴んでさらに奥へと突き進んだ。途端に悲鳴を上げる優一の声が甘い嬌声ではないのを感じて、咄嗟に腰を引いて浅い場所で腰を振り立てる。
締め付ける優一の身体に釣られる様に息を弾ませて、政宗は迫り上がる吐き出しと共に急いで竿を抜き出すと白い背中に白濁を飛び散らせた。
「ねえ、明日お見合いなんでしょ?」
ベッドに全裸で転がって夜景を見下ろしながら、優一は甘えた口調で呟いた。政宗はシャツを羽織りながら、愛人に面倒な事を言われるのかと眉を顰めた。
けれど、優一はその華奢な肢体を色っぽく見せつけるように身体を起こすと、政宗の方を見てにっこり笑った。
「しょうがないよね、政宗は西園寺家の跡取りアルファなんだから。お家は大事だよ。僕はこうやって時々政宗の元気そうな顔が見られれば十分なの。…我儘言わないから、婚約してもこうやって会ってくれる?」
そう言いながらも優一のいつも明るい顔は曇っている様に感じられて、政宗に罪悪感を植え付ける。身支度を終わらせた政宗はベッドに近づいて優一に触れるだけのキスをして言った。
「…政略結婚だからな。今と何が変わるわけじゃない。少なくとも俺は。」
そう政宗が言うと、優一はホッとした様子でクスクス笑って言った。
「相手はΩだっけ?番を求めるΩが愛されないなんてちょっと可哀想だね。でも政宗と結婚できるなら我慢できるんじゃないの?それともΩ嫌いの政宗の方が我慢できなくなったりしてね?あ、ここって明日のチェックアウトまで居ても大丈夫?」
優一の揶揄いに苦笑して、政宗はこれ以上色々言われないうちに退散してホテルの部屋を出た。
高校時代クラスメイトだった優一は、βの割にアルファに対してもずけずけモノを言う様な男だった。アルファの中でも別格であった、西園寺グループの御曹司であった政宗に対してもそんな振る舞いをする人間は、Ωでもましてβにも居なかったので、政宗は優一を面白がった。
そんな優一と去年、遊びに行ったクラブで再会した優一は、Ωかと見間違えられるほどひと目を惹く綺麗な男になっていた。
それ以来、小さいながら親が会社経営をする優一とはこうして定期的に会って、恋人と言うより愛人の様な関係になっている。多忙な政宗には、贅沢を好むわかりやすい優一をいい様に利用しているとも言えた。
見合いの件で健気な様子を見せた優一に罪悪感を拭えない政宗は、優一の欲しがっていたブランドの財布をタクシーの中でウォッチリストに入れた。これで機嫌が良くなるなら安いものだと思いながら。
モバイルを立ち上げてメッセージを確認すると、明日の見合い相手についての詳細が一覧になって貼り付けられていた。政宗はΩにしては背が高い相手の画像をじっと見つめた。
見合い写真というよりは何処かで撮ったスナップという感じのその写真からは、大人しそうな雰囲気が伝わってくる様だった。あまつさえフレームの細い眼鏡を掛けているので、正直野暮ったい。
政宗の知るΩであるならば、大概は美しさに磨きをかけてアルファの自分に媚を売るイメージだったため、見合い相手はそう言うタイプでなかったのは良かったのかもしれないと思った。
そもそも明日の見合い自体正式なものではなく、ホテルのラウンジでお茶を飲みながら顔を合わせる程度の気楽なものだから、気合いの入った写真は必要ない。
ここ十五年ほどで一気に名を馳せたIT系の事業で成功した如月家は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いでのし上がっていて、名家と言われる西園寺家も無視できない影響力を持っていた。ただ成金とそしられる事がほとんどないのは、如月家の面々が謙虚な振る舞いで敵を作らないせいだろう。
後継者同士の交流パーティで会った、今年30歳になる次期後継者の如月誉は、アルファらしくないあたりの柔らかな男だった。西園寺家の窮状を知っていたのか、彼は政宗に声を掛けてきた。
「西園寺グループの今季の決算を見ると、結構時間がない感じじゃないのかな。多分君ならあと十年もあれば十分に巻き返せるとは思うけど、今すぐに資金が欲しい所だろう?
うちも将来性のある相手と資本提携するのはやぶさかじゃないんだ。ただ、支援の規模を考えると何か保険が欲しいのも本音だ。西園寺君、うちの弟とお見合いする気はないかな。
弟はΩなんだけど、あまり恋愛に関心がなくてね。放っておいたら結婚しそうにないんだ。ただ発情期が酷く辛そうだから、結婚してパートナーを得た方が良いんじゃないかと思って。
仕事に私情を挟むのは悪手だけど、君のアルファとしての資質も見込んでの提案だ。会うだけ会ってみるかい?」
見かけの柔らかさとは違って抜け目のない如月誉とは全然醸し出す空気が違う弟、如月葵の平凡な顔をもう一度見つめて、政宗は政略結婚だろうが利用できるものは利用するだけだと開いたモバイルを閉じた。
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