相性※

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相性※

 足音が廊下の絨毯に吸い込まれるのを感じながら、私は西園寺の後をついてホテルの一室へ入った。毎回眺望の良いグレードの高い部屋にしてくれるのは、婚約者の私に気を遣っているのだろうか。 「先にシャワー浴びても良い?店に顔を出したから汗かいちゃって。」  私がそう声を掛けると、窓際のソファに疲れた様子で腰を下ろした西園寺が、頷きながら目の前の水をグラスに注いだ。 「…構わないですよ。葵さんが出たら俺も軽く浴びます。」  私に視線をよこさないのは、まるで敢えてそうしないようにしている感じがして、私は肩をすくめてバスルームへ籠った。実情は火の車だとしても、さすが西園寺グループのホテルはクラシカルな雰囲気があって高級感がある。  私は彼が社長になった暁には、この雰囲気も少し変化するのだろうかと考えながらシャワーを浴びた。  汗をかいたと言うのは言い訳だ。さすがに27歳の年上の男を抱くのに無理がないようにこちらが気を遣ったんだ。まだ西園寺と寝るようになって発情期は来ていないものの、お互いに慣れたほうがいいだろうと言う事で毎週一度はこうして寝るために会っている。  お互いに話したい事があるわけでもないから、私も彼も寝る目的がないと会う必要を感じないせいもあって、婚約者というよりもセフレのようなこの関係だ。  婚約前に西園寺の熱量を感じなかったのは話を持ち込んだ兄もそうで、この結婚を進めていいのかと心配そうな顔で尋ねられたけれど、私も苦笑して答えたのを覚えている。 「私の身体にはアルファが必要だから、彼でいいよ。人を好きになるとかよく分からないし、だったら身体の相性が良い方がマシでしょ。」  実際、西園寺と私の身体の相性は良かった。以前関係したアルファ達とは何かがしっくりこなかったけれど、西園寺とはそういうのが無かった。結婚を進める理由になるくらいには文句が無かった。  Ωにしては背も高いが、筋肉のつきにくい自分の湿り気を帯びた柔らかな身体を手で撫で下ろすと、既に期待している自分の股間が起き上がっているのが鏡に映し出された。ああ、今回もたっぷり満足させてもらえるんだろうか。そう考えるだけで口の中に唾液が満ちてくる。  分かりやすい自分に苦笑して、私は札束でアルファの男の身体を手に入れようとしてるのかもしれないと思った。  バスローブを着て出ると、裸の西園寺とすれ違った。濃厚なアルファの匂いに少しクラリとしたものの、無言でシャワーを浴びる水音を立て始めるすりガラス越しの西園寺を盗み見て、慌ててベッドルームへと向かった。  ソファの前のテーブルにはもうひとつのグラスにも水が満たされていて、私は何も考えずに欲望に渇いてきた喉を潤した。 「ローブなんて着る必要あります?どうせ脱ぐのに。」  あっという間にシャワーを終えて姿を現した西園寺は、まるで私に見せつけるように全裸をタオルで拭いながら歩いて来た。  いつ見ても惚れ惚れするような美しい筋肉に覆われたその身体は、案外無駄毛もない。手入れされているのかVゾーンも綺麗で、そのせいかいきり勃った股間がより大きく存在感を主張している。  私は自分の後ろが期待でジワリと濡れるのを感じて、無意識に首元を飾るお気に入りのネックガードを指先で撫でた。そんな私にニヤリとして西園寺は呟いた。 「この縁談で思いがけず良かったのは、資本の提携を置いておいても、婚約者が見かけと違って奔放だった事ですね。…もう、待ちきれない?」  私はドサリとベッドに座ると、ローブの紐を解いてシルクの生地が肌を滑るままに任せて、両手をベッドについて見せつけるように半裸を晒した。 「…時間がないんでしょう?」  私の言葉にビクンと目の前のシンボルが揺れた気がして、思わず視線を動かす前に西園寺がのしかかって来た。ベッドに押し倒された私の両手は頭上に押さえ込まれて、息を感じる距離で西園寺が私に軋んだ声で囁いた。 「…そうですね。急がないと。」
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