邪魔者

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邪魔者

 ホテルのレストランで先にメニューを選びながら、私は友人を待った。元々単独行動をする方ではあったけれど、せっかくのホテルだ。誰かと食べても良いだろう。 「待ったか?これでも急いで来たんだ。如月は私の誘いは簡単に断るくせに、呼び出しは一方的なんだから。」  顔を合わせた早々に愚痴られて、私は目の前の大学時代からの友人、三好(ケイ)を見上げた。彼はアルファだけど溺愛する末の弟さんがΩのせいで、Ωである私に昔から優しかった。  かと言って友人以上になる事がないとお互いに感じていたせいで、今もこうして気の置けない関係を続けている。  食事が届く間、私たちはシャンパンで乾杯した。 「如月、婚約おめでとう。西園寺グループの跡継ぎはどんな感じ?」  シャンパンを飲み干しながら、細めた目つきで私を見つめる三好に、思わずクスクス笑った。 「どんな感じって?まぁ良いんじゃない?ほら、私達は政略結婚だから、良いも悪いも無いでしょ。強いて言うなら、あっちの相性がまあまあだった、かな?」  そうしれっと呟くと、三好は声を立てて笑った。  「はは、その顔がまあまあかなのか?おい、まさか逢瀬の前じゃないだろうな。ここって西園寺グループの系列じゃないか。一緒に居るところを見られて誤解されて殺されたくないぞ?」  そう言って心配げに周囲を見回す三好に、私はクスッと笑って声を顰めた。 「大丈夫。もう今日はやる事やったから。」  そんな私の揶揄いにギョッとした顔を浮かべた三好は、次の瞬間顔を歪めた。 「…教えるなよ、そんな事。友人のそんなの想像するの嫌なんだが…!」  私は楽しくなって、更に笑った。まったくいつもカッコつけた顔しか見せない三好も、自分の利害が関係ない相手の前だと馬鹿みたいに緩む。それは友人として気を許されてる事だからどこかくすぐったい気持ちになった。  「でも如月が見合いしたって聞いて、意外だったんだ。元々結婚とか全然考える様なタイプじゃなかったろ?」  ナイフを使いながらそう尋ねる三好に、私は頷いた。 「…そうかもね。でも別に必要最低限の付き合いはして来たよ。枯れてた訳じゃない。でもこれと言って胸を焦がす何かが生まれる訳じゃ無かったから、別に見合いでも良いかなって思ってさ。  そう言う三好だって、恋に身を焦がす様なタイプじゃないでしょ。アルファって似てるね。西園寺もまるで仕事みたいに私との事をこなすよ。でも私は下手に感情を押し付けられるより面倒がなくて良いけど。」  三好は少し考え込む様にナイフの手を止めると、顔を上げて呟いた。 「私はともかく、弟達を見てると止められない衝動に振り回されてる様に見えるけどね。Ωもアルファも。そんな事から遠いと思っていたすぐ下の弟でさえ、気づけば親友に絡め取られていてびっくりしたよ。  …アルファ同士だったから余計に。」  最後は少し意味ありげな物言いに聞こえて、私はじっと三好を見つめた。彼もまた何か気になる恋愛事情があるのかもしれない。私はふふっと笑うと、目の前の皿がデザートに交換されるのに気づいて目を見開いた。  「楽しい時間はあっという間だね。私にはこれ以上報告する様な事はないけど、三好はそのうちに報告してくれる事が起きそうだね。」  私がそう言うと、視線を私の背後のレストランの入り口に流した三好が、口元を面白そうに歪めてデザートのシャーベットを口に放り込んだ。 「私はともかく、如月は自分のことあまり分かってないみたいだ。食後のコーヒーはお預けだな。私、殴られたりしないよな?」  三好に問いかける間も無く、西園寺がツカツカと私達のテーブルまでやって来るところだった。レストランの案内が、困り果てた様子で西園寺の後をついてくるのが見えて、私は思わず強張った顔をして三好を睨みつける年下の男に声を掛けた。  「西園寺さん?お仕事終わったんですね、お疲れ様。」  そう微笑んで声を掛けると、ようやく西園寺は私に目を移して、それからますます顔を顰めて少し呻いた。え?何だろうこの人。意味が分からない。私が戸惑って西園寺と見つめあっていると、笑いを堪えた三好が空気を変えた。 「っふ。…西園寺さんですね。私三好コーポレーションの三好彗です。この度は友人の如月とのご婚約おめでとうございます。今丁度貴方の話を聞かせていただいてたんですよ。  如月はこの通りのらりくらりしているのは学生の頃からですから。とは言え悪気はない奴なんで広い心でよろしくお願いします。」  立ち上がった三好に名刺を差し出されて、一瞬の間の後、西園寺はジャケットから同様に名刺を差し出して型通りの挨拶を済ませた。  機嫌の良い三好が立ち去って取り残された私は、ナフキンで口元を拭うとまだそこに突っ立っている西園寺を見上げて言った。 「ご馳走様。とても美味しかった。シェフにそう伝えておいてくれる?あ、ここの会計は私が払うからね。」  すると立ち上がった私の腰を抱き寄せてガッチリと手を回した西園寺は、レストランの出口に向かって歩き出した。 「…どうせあいつが払ってくれたでしょ。それよりここで食事をしているって事は、部屋はチェックアウトしていないですよね。腹ペコな俺にルームサービス食べさせてください。」  不機嫌さを隠そうともしない西園寺はお腹が空いているせいでそんな態度なのだろうかと、私は子供っぽい西園寺に見つからない様にこっそり微笑んだ。
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