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サラサラな肩まである金髪をゆっくりと掻き上げて、アリスは屋敷でポッド・フィッシュにビネガーを入れ、軽い朝食を摂っていた。今朝のサン新聞には、またもや首なし事件がウエストタウンで発生したと書いてある。このところウエストタウンを中心に三件もの首なし事件が起きていた。
アリスは憂いの顔で紅茶を口に運ぶと、この屋敷の唯一の使用人のヨボヨボの老婆が紅茶のお替りを持ってきた途端に悲鳴を上げた。
「まあ、アリス嬢ちゃん! 右の手首に傷ができてますよ! すぐに洗って消毒を……今、お湯を持ってまいります! いいですか、そのままでお待ちくださいね!」
老婆はよろよろとキッチンへと向かった。
「あら? 痛みはないわ……一体? いつの間についたのでしょう?」
「アリス? どうしたんだい?」
窓辺の椅子からアリスはその抑揚のない声の方を向くと、一室の隅に忽然と銀髪の青年が音もなく立っていた。
「おはよう。モート」
モートと呼ばれた銀髪の青年は、アリスの手首を鋭く見つめるとすぐに険しい顔を作った。
「すぐにオーゼムに知らせないといけない……それは聖痕かも知れない……あの少女と同じく右の手首にあるなんて……」
アリスはモートが外へ出た後も老婆がお湯で手首の傷を洗ってもらっていた。
「まあまあ、ばい菌が入ったら大変大変! まあ! なんてことでしょう! 鞭で打たれような裂けた傷!!」
老婆はあまりにも酷い傷なので、悲しみのあまり次にハンカチを薬湯に浸して絞ると、アリスの手首に優しく巻いた。
アリスは何気なく。窓の外を覗いた。
霜の降りた路上に粉雪が無音に舞っていた。風はなかった。
これから聖パッセンジャービジョン大学へと通学しないといけなかった。
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