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モートがどこかへと行ってしまったので、時間なので一人で行くことにした。アリスはいそいそとショルダーバッグを持ち、今日は袖の長いカジュアルな白のロングコートを着て、路面バスに乗ろうと屋敷から道路へと繋がる橋を歩いた。
橋の上の雪は今朝に老婆が綺麗に雪かきをしてくれている。
アリスはその老婆の厚意に嬉しさで心が一杯になった。
アリスの屋敷があるヒルズタウンからは、途中エンストを三回も起こしたが、聖パッセンジャービジョン大学まで路面バスは通常運転をした。イーストタウンのバス停で白のロングコートを着た親友のシンクレアが乗ると、アリスはシンクレアと楽しくお話ができた。
アリスはその間。手首の傷のことをすっかり忘れてしまっていた。
けれども、アリスはやはりモートのことが気掛かりだった。
その話をすると、シンクレアは「この街を一度救ってくれたんだもの。モートのことなら何もかも任せてしまえばいいのよ。何も心配なんかいらないのよ。ねえ、そうだわ。モートなら何も言わずに黙って、またこの街を救ってくれるはずだわ」と励ましてくれた。
モートは前に世界の終末を回避して、ここホワイトシティを救った英雄だった。
車窓からの風のない雪の降る景色に急に光が射しこんできた。ここホワイトシティでは珍しいことだった。光の下を二十を超える鳩が遥か西の方へと飛んでいった。
「まあ!」
アリスは今の何もかもの幸福な出来事によって、感極まって涙が滲んだ。次第に手首の傷がほんの些細なことのように思えてきた。
アリスはモートのことをまた考えた。
いつも無口で感情的になることがないが、頭が良く対人関係ではある種のとても奇妙な強さを持っていた。
そんなモートはアリスにとって素晴らしいフィアンセだった。
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