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ある夕暮れのことだった。
公園を通った。
暗くなると危ないので早く帰るか、携帯電話で家に電話しなさい、と、母に言われていた。
私は家路を急いだ。
すると、ブランコに座った一人の女性が目に留まった。
髪は短く、メガネをかけていて、長いコートを着ていた。
「こんばんは」
私がそばを通った時に、女性は言った。
「こんばんは」
私はお辞儀だけして去ろうかと思ったが、どうにも足が動き難かった。
大人の異性と話すのが珍しく、性の芽生えでも感じていたのだろうか?
個人的には、そういうわけではなかったと思う。
特に見栄を張って言うわけではないが。
「そっちに帰るっていうことは、お金持ちね」
女性が言う。
「うん、ボクの父さんは……」
私は、誇らしげに名前を言った。
すると、女性の顔が曇った。
流石に、子どもなりにそれは分かったので、
「どうしたの?」
と、聞いた。
「いえ……子どものあなたにまで、罪を押し付けるものじゃないわね」
女性は笑った。
「父さんはいい人だよ」
「はは……」
女性は乾いた笑いを発して立ち上がると、去っていった。
その時は、どうにもモヤモヤした思いを抱いたものだ。
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