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翌日、殺人事件が新聞に載った。
貧民が金欲しさに誰かを殺したのではなく、金持ちが自宅で撃たれた事件だった。
背景については、私にはあまり理解できなかった。
今、記憶に残っている新聞記事の単語をたどると、おそらくは裏社会の抗争で、表向きは『善良な金持ち』だった存在が撃たれたような話が書いてあったように思う。
「こういうことをする奴らは許せないね」
私が怒ったが、父は、
「ああ……」
と、答えるばかりだった。
快刀乱麻を断つような回答を期待していた私には、いささか不足であった。
「どうしたの、パパ」
「いや……許せないな。そうだとも、許せないじゃないか」
父はそう言うと立ち上がり、部屋を去った。
なんだか変な気がした。
※
その日の夕方。
また、公園を通りかかった。
同じように、コートの女性に出会った。
「ここは、よく通るのかしら?」
女性が言った。
「まあね。早く帰らなきゃ」
「ええ、最後ですものね」
「最後?」
「あなたも今日、少し、大人になるってことよ」
「よく分からないな」
「ええ、分からないでしょうとも」
女性は立ち上がると、私に一通の、封に入った手紙を渡した。
「なんだい、これは」
「家に帰ってから開けるといいわ」
私は手紙を見ながら首をかしげたが、それ以上聞くことは出来なかった。
手紙から目を離した時には、女性はいなくなっていた。
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