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|門脇稜太《かどわきりょうた》
「おお!女子の体育!麗美ちゃんいる?」
トラックを走っているクラスの女子を見ていたら佐々木健が話しかけてきた。
健は稜太の友人で、いい奴だが少しお調子者だ。
クラスで一番可愛いと噂されている櫻井麗美に熱を上げていた。
相手にされてないところが可哀そうだが。
「あれ誰だっけ?」
「だれ?どれ?ショートカットの子?」
走るフォームが整った、背のスラッとした女子を指さして訊ねた。
「え、あのスタイルいい子?伊藤。伊藤明里。同じ中学じゃねえの?」
「いや、違うな」
二年に上がりクラス替えがあり十クラスになった。一年の時は違うクラスだったのだろう。
初めて見る顔だと思った。
「なに、気になるの彼女」
「いや別に。ただ、すげえフォーム綺麗だなと思って」
走る姿がやけに板についていて綺麗だと思った。
「話した事ある。中学までは陸上やってたって。今は何も部活やってないはず。麗美ちゃんの親友だ」
「勿体ないな。綺麗なのに」
「確かに美人だよな。でもさ俺絶対身長超されてそうだ。股下とか確実に負けてるわ」
フォームの話だがと思ったが敢えて否定はしなかった。
それから、なんとなく彼女を目で追うようになった。
前下がりのショートボブが似合っている。
授業中、落ちてきた前髪を耳にかける仕草に見惚れた。
伊藤は色白で肌が綺麗だった。顔はあっさりしていて、目立つほどの美人ではないけど、自分好みの顔だ。
さっぱりしてクセのない性格は、同性からも好感を持たれているようだった。
俺は話しかけられたらしゃべるし、別に女子を意識してきょどる体質ではない。
けれど体がデカいから、女子に限らず知らない人からは怖がられてしまう。
用もなく伊藤に話しかけることはできなかった。
俺は小学六年生ですでに身長は百七十センチを超えていた。
町を歩いていて、高校生に間違われる事もよくあった。
何度もやんちゃな中高生に喧嘩を吹っかけられてはボコボコにされる小学生だった。
中学に入ってから、このままではやられっぱなしだと気付き、鍛えるために柔道部に入った。少しでも強くなりたい一心で部活動に励んだ。
その努力は功を奏し、全国大会でベストフォーに入るほど強くなった。
この学校は進学校で、柔道部がなかった。なんとなく先輩に誘われてラグビー部に入った。自分はどちらかというと、サポート体質の性格だ。
ラグビーはチームプレーの競技、協調性が重要なスポーツだ。メンバーとの信頼関係を築いて自分の役割を全うした。
◇
伊藤と二人で帰る事になった。
朝起きてチャリのタイヤがパンクしてた時には、遅刻やべぇと思って思わず唸った。
よくやったぞ俺のチャリ!今となってはチャリに感謝しかない。
一緒の下校は、たまたまタイミングが合っただけだったけど、俺としてはかなり嬉しかった。
彼女は誰とでも分け隔てなく会話ができるタイプなんだろう。
気を遣って話しかけてくれている。
基本無口な俺は訊かれた事にしか答えを返せなかった。
こういう時に話せる、面白小話でも仕入れておくんだったと少し後悔した。
明日は平日に学校が休みになる特別な日だ。
部活もない。
『どっか行こうか』と誘うか?
でもさっき、麗美ちゃんを誘って彼女が断ってたから、明日誘うのはやめておいた方がいいだろう。
そんなことを考えながら、なぜか一列になって歩いていた。
その時、商店に貼られていた夏祭りのポスターが目に留まった。
これだ、と思った。
「来週花火大会だな。一緒に行く人いないけど」
いや、どんだけボッチなんだ俺。
キモくないか……
「そうなんだ」
肯定された。いや、話に何の興味もなさそうだ。
「一緒に行く?」
「なんで?」
その返しは想像していなかった。
沈黙が続く。
「え、それ訊く?」
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