高校・最終話

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高校・最終話

勉強に集中していると、面倒な事すべて忘れられる。英単語をひたすら暗記していた。 いつの間にか門脇君がドリンクを持って明里の前に座っていた。 「あ、ごめんね。集中してた」 「いや、待たせたな。悪かった」 少しの間沈黙が続いた。 「北海道から帰ってすぐに熱が出たの。どうも気温の変化に体が対応してなかったみたいで、風邪引いちゃった」 「もう体調はもとに戻った?」 うんと頷いた。 「ラインは返ってこないし、電話しても出てくれないから、俺かなりまいってたんだけど」 「うん。ごめんね……死んでたから」 「ただ体調が悪くて電話に出られなかったの?それとも他に何か理由はある?」 「特別理由はない。ただ、もう北海道のことは終わったことだから。いい思い出として心の中にしまいたいと思ってる」 「思い出?」 明里は頷いた。 「これからお互い受験生になる。私は勉強したい。それ以外のことに気を取られたくないの。もう二年も終わる。高三になったら予備校へ通うし時間もなくなる」 「私は、門脇君も知っていると思うけど、ヤングケアラーだったのかもしれない。介護に協力せざるをえない状況だったから。でも、その対価を親からもらうの。大学に入ったら家を出て一人暮らしして、自分の自由を満喫する」 門脇君は続きを促した。 「もう、誰にも邪魔されたくないの」 酷い言葉だった。あんなに明里に優しくしてくれた人に対して邪魔だと言っている。最低でとても残酷な言葉だった。 「門脇君にも自分の目標があるでしょう。私も同じ。今はそれに全力を尽くしたいの」 彼は何も言わなかった。 「ごめんなさい。感謝しています。一緒に北海道に来てくれて嬉しかった」 最後に明里はできるだけ明るく笑顔をつくって門脇君に告げた。 彼には大切な彼女がいる。 北海道というあの場所が、紋別が二人の距離を近づけてしまった。 自分は門脇君に好意を抱いてしまった。これでおしまいというのは寂しいし、落ち込んでしまうかもしれないけど、時間が経てば元の生活に戻れるだろう。 優しい人だから、明里に変に気を遣って彼女と別れる選択をしてほしくない。 門脇君はアイスコーヒーを口に含むとゴクリと飲み込んで話しをした。 「俺、ちゃんと言ってなかったけど、明里のことを好きだ。彼女になって欲しいと思ってる。もちろんこれから受験勉強しなくちゃいけない。なんとか両立させる努力をして欲しい。俺の気持ちは変わらないから」 「北海道についてきてくれたことは嬉しかった。あの時はとても楽しかった。門脇君のことを大好きになったし私も浮かれていた」 「ちょっと待って、今結論急いで出さなくていいから。ちゃんと考えてほしい。……返事はこの雰囲気だと、どう考えてもダメだろ」 「返事を待ってもらっても同じだから」 「それってやっぱ俺ふられるってこと?」 明里は頷いた。 「ごめん。それと、真菜さんだっけ。あの子にちゃんと伝えておいて欲しい」 「……なんだよ。なんで真菜が出てくるだよ、あいつは関係ないだろう。明里………お前冷たいやつだな邪魔だなんて、キツだろそれ」 明里はうんと頷いた。 「ごめんなさい」 明里は静かに席を立った。 真菜さんが関係ないなんて事ないでしょうと言いたかったが、もう言い争いたくないし、喧嘩したいわけではないから。 後ろは振り返らなかった。 静寂の大きな川が明里の中に流れ込み、全てをさらっていく。雪の紋別が、過去の思い出となった瞬間だった。 ーーーーーーーーーーー高校編・完ーーーーーーーーーー 続く『海と恋と私たちの間違いと』
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