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「あっ!教室の片付けやってくれたんだーありがとう!」
桜ちゃん達がクラスに戻ってきた。
みんな自分の部活や生徒会なんかで、いろいろ大変だったんだろう。
「外の係は大変だったよ」
「そうなんだね」
人によって、それぞれやるべき仕事がある。
「教室は涼しくて良いね」
……ん?
「麗美がほとんど一人で片付けしてくれたよ」
クラスの仕事を放置していたのに良いねはないだろう。少し腹が立った。
「そうなんだ〜ありがとぉ」
あまりにも感情のこもっていない「ありがとう」の無意味さよ。
何もしていないように思われる帰宅部だけど、率先して学級の仕事をしていた。彼女たちだけが大変だったわけでは無い。
「これから皆で打ち上げ行こうって話になってるんだけど、明里たちはどうする?」
クラスメートの女子が聞いてきた。
一応誘ってくれているみたい。
「あ、でも……麗美ちゃん塾だよね?」
麗美は殆ど毎日、家庭教師か予備校がある。
形式上誘っただけだろう。
めったにそういう集まりに参加しない可愛い女子は、もし打ち上げなんかに来たら男子たちの注目の的になる。
彼女たちにとっては邪魔だろう。
「明里は家が厳しいし無理?」
いつから私の家が厳しい設定になっていたんだ?
そもそも、まだ麗美が行けるかどうかの返事をしていない。
「明里ちゃん、行ってきたらいいよ」
麗美が私に気を遣って言ってくれた。
「あぁ、私も家の用事で今日は無理だわ。ごめん、またの機会に」
明るく桜ちゃん達に返事した。
「なら、いつにする?」
おっと、ここで、ちょっと空気読みなよ的な、門脇くんの発言。
私はすぐに立ち上がってみんなの所へ行くと。
「まぁ、みんなで楽しんできて!あとは片付けやっとくから!」
ほら、早く!というふうに彼らの背中を押した。
「えー麗美ちゃんいつなら行けるのーーー」
佐々木君が男子たちに、引っ張られながら名残惜しそうに叫んでいる。
「そうなんだ。じゃまたね!片付けありがとうね」
桜ちゃんはそんな佐々木君を引きずりながら、私達に手を振った。
「じゃあね!」
私は元気よく皆を送り出して、ホッと息を吐いた。
麗美は明里の家が、祖父の介護で大変だということを知っている。
そして麗美も彼女なりに苦労していた。
麗美ちゃんの父親は医者だ。
娘も医者になってもらいたいようで、彼女は幼い頃から英才教育を施されていた。
けれど麗美は私立の高校受験に失敗して、私と同じ公立の学校へ入った。
そこそこ偏差値の高い高校なんだけど、親は不服だったらしい。
大学受験まで失敗するわけにはいかないと、毎日決められたスケジュールで麗美は勉強させられている。
お互い触れられたくない話題には特に触れなかった。
自分たちの青春は家を出てからやればいい。
明里も麗美も、大学に入ったら、一人暮らしをしてもいいと親から言われていた。
ちゃんと勉強をして、できるだけ家から遠く離れた大学に行きたいと思っている。
実家から離れた遠方の大学であっても、親に文句を言われないくらい偏差値の高いところに入ろうと二人で頑張っていた。
麗美は明里にとって、幼馴染みで、親友で、同士のような存在だった。
「明里ちゃん、今日は遅くなってもいいって言ってなかった?」
「うん。だけど、みんなと一緒だと気を遣うばっかりだし、楽しめそうにないかな」
ふふふ、と二人で笑った。
「今日、私、塾休もうかな」
「え?」
「今日は学園祭だし、塾に行けないかもって言ってきたから大丈夫。たまには休息が必要だもん」
多分、そんな事は親に言ってないだろう。
麗美は私に時間がある事を知って、気を遣って自分も時間を作ろうとしている。叱られる覚悟で塾をサボるんだ。
「じゃあ……カラオケ行く?」
「皆と鉢合わせは嫌だから、隣町まで行こうか」
「……行こうか」
二人で顔を見合わせ笑った。
いつも良い子でいるのは疲れる。
親に対する私たちのちょっとした反抗だった。
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