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寒さも厳しくなり、お爺ちゃんが体調を崩した。
立ち上がることが困難になり、ベッドに寝たきりになった。
調子がいい日は少なくなり、日中、目を開けている時間が短くなった。
それでも食事の時は、口元にスプーンを持っていくと口を開けてペースト状にした食事を食べた。
入れ歯の取り外しや、口腔ケア。タオルで体を拭く作業。着替え、おむつ交換。一気に作業が増えた。
お母さんは在宅ワークに切り替えた。
デイサービスには通えなくなり、両親が夜中に話しているのが聞こえた。
『明里に迷惑をかけてしまっている』『もう自宅で看るのは無理ね』と。
その後、ケアマネジャーさんと話し合い、お爺ちゃんは施設に入ってもらう事になった。
高齢者施設というのは待機している人が沢山いて、申し込んだとしてもすぐに入所はできないらしい。
お爺ちゃんは特別養護老人ホームの八十五番目の待機者となった。
母親は、仕事に食事の準備、買い物。洗濯や掃除など、とても大変そうだった。
行政のサービスが受けられればよかったけど、同居家族がいると自宅での生活援助は難しいらしい。
母親が家で仕事をしている間は、邪魔にならないよう明里がおじいちゃんの面倒を見た。
できるだけ音を立てず、おじいちゃんの体の向きを変える。
そうしないと床ずれができてしまうらしかった。
私に申し訳ないと思っているのは分かる。けれど自分の思い通りにいかない事に、母はイライラしていた。
こんなことなら仕事は会社でやって欲しい。お母さんが家にいない方が楽だと明里は思った。
そして、その年の瀬におじいちゃんが死んだ。
口には出さないけど、家族みんながこれで楽になれると思った。
親戚の人達はみんなよく看てくれたね頑張ったねと明里に言ってくれた。
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