旅路

1/2
前へ
/29ページ
次へ

旅路

そして、祖父が亡くなってひと月が過ぎた。 学校が改修工事の為の特別休校日で今日から休みだ。三連休だった。 明里はこの連休を利用して行きたい場所があった。 この日の為に準備をし、親にも許可をもらった。 最寄り駅の改札で門脇君に出会った。 「よう、どこに行くの?すげぇ荷物だな」 明里は防寒具に身を固めて、大きなリュックを背負っていた。 「……ちょっと……ね」 どこに行くかは言いたくないし、話せば長くなる。 言葉に詰まっているんだから、門脇君、察してくれと思った。 苦笑いして軽く手を挙げた。 『じゃあね』の意味。 手を振って改札を抜けた。 ふと後ろを見ると、まさかの門脇君。 彼は私について来ていた。 門脇君は明里と同じ電車に乗ると明里の横の席に座った。 電車は十分に空いていた。 7席横並びのシートには私とサラリーマンが両端に座り、真ん中五席が空いている。向かいのシートには誰も座っていない、同じ車両のほかの座席も似たような状況だ。 平日の昼下がりだ乗客は少ない。 「しってる?空席でガラ空きなのに、人のすぐ隣に座る人を、昔、トナラーって呼んでたんだって」 「知らない人同士に使うんだろう。友達同士でも言うの?」 門脇君のくだらない質問は無視した。 何処までついてくるのか知らないけど、 いちいちかかわるのは面倒くさい。 どうぞお好きにという感じで放っとく事にする。 「おじいさん。残念だったな……えっと、ご愁傷様ですとかなんとか言うのかな」 「……まぁ、もう、年だったし」 もともとそんなに話が上手なタイプではない門脇君が、遠慮がちに言葉を選んで話している。少し気の毒に思えた。 電車がカーブに差しかかる時、スピードがガクンと落ちた。その振動で明里は、門脇君に寄っかかってしまった。 ラガーマンらしくガッシリした体つき、大人の人みたいだなと思った。 明里は電車を乗り換えて羽田へ向かった。 門脇君は何処まで来るのか知らないけど、このまま私について来てもあまり意味がない。最後まではついてこられないんだから、今言った方が、親切だなと明里は思った。 「私、今から北海道に行くんだけど、門脇君何処までついてくるの?」 「北海道!?」 驚いたようだった。門脇君は鉄道のICカードで乗ったんだろう。適当なとこで折り返した方がいい。 「北海道か……一人で行くの?」 明里は頷く。門脇君は財布の中身を確認している。 「ちょっとコンビニ寄って金下ろせば、なんとか行けるかも」 冗談きついな。明里は目を丸くして眉根を寄せる。 「ははは、無理だよ。飛行機予約してないでしょ」 そっか飛行機かと門脇君は考えている。 どの便か門脇君は聞いてきた。どうせついて来れないだろうと思い明里は素直に教えた。 門脇君はスマホでいろいろ調べているみたいだった。 明里一人におじいちゃんの面倒を見させて、申し訳なく思っていたのか、お姉ちゃんがお小遣いをくれた。十万円、大金だった。好きに使えと言ってくれた。 兄は学生の身分だからと、財布から五千円出して明里にくれた。「気持ちわるっ」と言いながらも有り難く頂戴した。 親戚の叔父さんもお葬式の時にお小遣いをくれた。 そのお金で北海道まで行けるなと考えた。 一応、姉兄二人とも明里に悪いと思っていたようだ。自分たちは家を出ている。 明里が介護を手伝う為に、陸上部に入らなかった事を彼らは知っているし、申し訳なく思っていたらしい。 足は速かったけど、それで大学へ行けるほど速いわけではなかった。タイムもどんどん落ちてきていたので、ここら辺が潮時かもなと自分では思っていた。 確かに自分が部活動をしなければ、親が助かるとは思ったが、そこまで部活に対して熱意を持っていた訳ではない。 そんなの別に良かった。 だから気にすることないのに。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加