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北海道
「な、なんで?……バカなの?」
しんじらんない!と明里は半分キレながら、新千歳空港の到着口からJRの改札口まで歩いていた。
横には門脇君がいる。
「いくら?いくら使ったの飛行機代!」
「三万ちょいぐらい」
高校生の三万円は大金だ。
あきれて物が言えないとは、こういう事だと明里は思った。
北海道は初めてだから、絶対に引き返さないと門脇君は言った。
「せっかく北海道に来たんだから、観光とかしたいし札幌ラーメンとか食いたいし、できれば蟹とかイクラも」
「そんなの知らないわよ!」
「じゃあとりあえずよく分からないから、伊藤さんについて行く」
「どうやって帰るの?お金はあるの帰りの飛行機代!」
「一応お年玉貯金をだな……十万でなんとかする」
ほんっと信じらんない。
まず、門脇君が同じ飛行機に乗れたことがミラクル。空席があったんだろうけど三万のチケットで普通引くよね。何でチケット買ったんだろう。
「何で?……何でついてきたの?」
「いや……なんかお前、あ、伊藤さん。悲愴感漂ってたし。なんかあったらまずいかなと思って」
「なんかって何?たとえ何かがあったとしても、門脇君には関係のないことでしょう?ここから私がダッシュしたら門脇君なんて簡単に巻けるからね」
「おれ、五十メートル五秒台で走る。逃げようと思っても無理だぞ」
タイム競ってる話じゃない!明里は深呼吸をして神経を鎮める。冷静になろう。
門脇君は理由はどうあれ明里についてきてしまった。ここで自分がイライラしても始まらない。
彼は帰らないと言っている。
そうすれば選択肢はない。答えは一つだ。
「親御さんに電話して、日曜日に帰るって伝えて。もしだめならば、このまま飛行機に乗って東京へ帰って下さい。嫌だとは言わせない。未成年なんだからね!親から了承得られたら一緒に来てもいい」
門脇君は、おう、と返事をして頷いた。
「……贅沢な旅行ではないけど、一応北海道まで来たんだから楽しまなきゃ損だから」
彼は私のことを心配してついてきたんだ。
駅で出会ってしまったのが運の尽き。自分にも責任がある。
門脇君はラインで親に連絡しているらしかった。
しばらくして、画面を明里に向けると「日曜帰るのね了解!」という返信を見せた。
札幌に着くまでの間、明里は忙しかった。
とにかく門脇君の泊まる場所を確保しなければならない。
自分が予約しているホテルに問い合わせてみた。
帰りの飛行機も同じ便で門脇君の分を予約をする。
「さぶっ……」
そうでしょうとも、そうでしょう。
真冬の北海道寒いに決まってる。門脇君は荷物を何も持ってないし、旅行にくるかっこじゃない。
何もかも腹立たしい。
今から準備するとしても、着替えとか鞄とか、普通に買ってたらまずお金がもたない。
明里は電車の中でこれからどう行動するか考えていた。
私たちの住んでいる埼玉県熊谷市は、日本で一番暑いまちといわれている。
そこで育った門脇君が、こんな薄着で北海道にいる。
なんだがとても滑稽に見えてきた。
「まるで真冬に半袖半ズボンで登校してる小学生になった気分だ」
「大丈夫、門脇君なら気合でなんとかなるんじゃない?」
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