すすきの

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すすきの

すすきののホテルは激戦区らしくすごく安くで泊まれる。 先に荷物を預けて観光しようという話しになった。 「ツインルームだから」 「え?」 門脇君はギョッと目を見開いた。 「その方が安いし。二人で八千円だし」 「……わかった」 明里も門脇君も、背が高いし一見大学生に見られる。 ツインルームでも、旅行来たカップルだったらおかしくない。 ホテルの人にも何も言われないと思う。 けれど門脇君はなんだか不服なようだった。十代の男女なんだから、同室なのが気になるのは仕方がない。 だけど明里は兄もいるし気にしない。それに門脇君が変な事するとは思わない。 冬の北海道は日が暮れるのも早い。すぐに暗くなった。 「スープカレーの専門店に行くつもりなんだけど、いい?」 「ああ」 門脇君の口数が少なくなっていた。原因はホテルの部屋にあると思う。ツインルームが嫌だったんだと思う。 シングルルームが満室だったんだから仕方がない。 分かるけど、贅沢は言ってられない。 なんとかスマホのマップを頼りに目的の店へたどり着いた。 行列ができるカレーの専門店だ。 夜のすすきのだから流石に一人では入れないだろうと諦めていた店だった。 ある意味、門脇君が一緒でよかったと思った。 「……え、と、ここ、大丈夫?」 門脇君がいかにも怪しげな古びたビルを見てきいてきた。 少し、いや、かなり危なそうな雰囲気だ。 「ネットで評判だから……おいしいらしいし」 あまりきれいとはいえない、雑居ビルの間にあるお店だった。外から中の様子が伺えない。怖いなと思った。 朽ちかけた木の扉を開けて門脇君が先に入った。 意を決したように明里も後に続く。 ドアを開けると目の前には階段。エントランスらしいものはなかった。 「まさかの階段」 そう言いながら門脇君は階段を上がって行く。 目当ての店は三階だとネットには書いてあった。 薄暗い階段を門脇君は躊躇せずにどんどん上がる。 普段だったら絶対に入らないなと明里は思った。 ◇ 店内は意外と普通で、開店したばかりだからか、お客さんは少なかった。本当に人気店なのか怪しいと思った。けれど後から続々とお客さんが来店したので有名なのは間違いないだろう。 メニューを選び、カレーのベースと辛さ、ご飯の量を選ぶみたいだ。 「門脇君さ、私を襲うの?」 注文を終えて明里は言った。 「は?んな訳ないだろう」 「じゃ、別にツインでも良くない?ベッドは二つあるし一泊四千円だし。ここは結構前に予約した部屋だから、普段だったらもっと高い。めちゃ朝食がおいしいと評判。それにポイント割使って、なんかクーポンも貰ったからお得だよ。ほら一泊で三千円分付いてくるんだって」 そんなことを話していると、注文したカレーがやってきた。 「大きめ野菜って、じゃがいも丸ごと入ってるぞ。明里のなにカレー?」 門脇君のホルモンカレーはなかなかのボリュームだった。 「手羽。一本入ってる。食べる?煮込まれててホロホロで美味しい」 お昼を菓子パンで済ませてたから、二人ともお腹が空いていた。めっちゃくちゃおいしかった。食べ応え抜群で、門脇君は満足そうだった。 「どこか観光したい場所とかある?一応日程表あるんだけどラインするから見て」 明里は以前から何度も考えていた旅行の行程表を送った。 門脇君はそれをじっくり見ていた。 店内は大人のお客さんばっかりだ。あっという間に、仕事帰りのサラリーマンやカップルで満席になった。 自分達より後に来たお客さんが、店員さんから三十分待ちだと言われていた。 まだ六時なのに、お酒が入って大人たちはみんな楽しそうだ。 「なぁ、これさ、紋別までバスで四時間以上かかるの?すげーな。北海道デカ過ぎ」 紋別行のバスは予約してる。明日の早朝発だ。正直紋別は雪に覆われていて、あまり出歩いたりできないので、流氷とか見たらそれ以外は特に見る物がない場所。 「小樽の運河とか、博物館みたいな観光地に行けないんだけどごめんね」 観光したいと言っていた門脇君に、あまり時間がない事を謝った。
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