すすきの

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「藻岩山 山頂展望台に行きたい」 門脇君が急にそう言った。 「なに?それ……夜景スポット?」 そうだと門脇君は駅でもらった観光マップを取り出した。 まさか、そんな恋人たちスポットに行きたいと言うとは思わなかった。 確かに、明日札幌で観光ができないとなれば、夜、今から行くしかない。 明里は即決した。外は暗いけどまだ時間は早い。 「OK。行こう」 札幌は日本新三大夜景都市だ。みる価値はあるだろう。明里は席を立った。 門脇君は明里に封筒を渡した。 「取り敢えず五万入ってるから、ここから、いろいろ出してもらっていいか?」 明かりは頷いた。 明里も財布からお金を出した。 同じ金額封筒に入れ「二人の軍資金」と言った。 駅までの道がライトアップされている。美しい街を見ながら歩いた。ホワイトイルミネーション。光と雪の組み合わせによる札幌らしい光の芸術。 初めて見る町並みも、駅もお店もみんなキラキラしている。 夜のすすきのは十代の明里には、とても幻想的な世界に見えた。 人混みが凄かったけど、門脇君が大きいから、なんとなくすれ違う人が、みんな避けてくれている気がした。 地下鉄に乗って、山頂まではロープウェイ。 山頂展望台からは札幌の街夜景を三百六十度見渡すことができる。 ほぼ全方位の夜景が眼下に広がる様はまさに圧巻。 だけど、山頂のためか、夜は寒さが半端なかった。外国人観光客やカップルもたくさんいたけど、ずっと屋外にいたら凍死しそうだ。 「すげ、綺麗だな」 寒さをものともせず感動している門脇君に感動した。 スマホで写真を撮る手もブルブル震える。 せっかくだから一緒に撮ろうと言って二人で撮った写真は真っ暗だった。 「あるだろう夜景撮影専用のやつ」 「あるけど、もう寒すぎ、無理」 貸せよと言って門脇君がスマホを操作して、明里と夜景を何枚も撮ってくれた。 「マフラー貸すからぐるぐる巻いといたら?俺のこのフーマアウターは、フードついててかなり暖かい」 さすがフーマだ。 「ありがとう」 明里はそう言うと、門脇君からマフラーを借りて首から頭にかけてぐるぐる巻いた。二百円のマフラーはかなり暖かかった。 展望台には恋人たちの鐘とか、愛の南京錠とか、なんかいろいろあった。そこはなんとなく二人ともスルーした。 「プラネタリウムがあるみたい」 山頂には小さなスターホール というプラネタリウムがあった。 「十九時三十分上映に間に合う。観よう、てか室内入ろう」 そう言って二人で「MEGASTAR」という最も本物の宇宙に近い人工宇宙というものをみた。 これもやっぱりキラキラしている。光と光の境目が曖昧になり、その美しさに明里は感嘆の息を洩らす。 そして上映後にカーテンが開くと、ガラス窓の向こうに、夜景が登場。札幌の星空夜景だ。ちょっとしたサプライズ感に感動した。明里は思わず「うわっ」と声をあげた。 その夜は、門脇君が帰りにどうしても札幌ラーメンが食べたいというので、屋台でラーメンを食べた。 すすきのに深夜までやってる大型ショッピングセンターがあったので、そこで門脇君は下着と靴下を買った。お土産も買った。この先、買えなかったら困るのでここで買うことにした。 明里たちは時間を忘れて夜の札幌を満喫した。 結局のところ、同室なのも気にする暇もないくらい疲れ切っていた。ホテルに帰ったら二人ともすぐにぐっすり眠ったのだった。  
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