|伊藤明里《いとうあかり》

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|伊藤明里《いとうあかり》

なぜかみんなも一緒に帰るみたいだ。 私は校門まで佐々木君と門脇君の三人で歩いた。 電車通学の佐々木君は途中で駅の方に向かい、帰り道が門脇君と明里の二人になった。 明里は高校二年、身長は百六十八センチで女性にしては高い。 それでも門脇君のほうが随分背が高かった。 気まずい。 特に門脇君との会話を思いつかず無言で歩く。なにか適当に話す内容を考えた。 「門脇君って……自転車通学じゃなかった?」 ラグビー部の彼は部活があるので、登下校で姿を見かける事はめったになかった。 確か自転車で通学していた気がする。 「ああ。朝、チャリのタイヤがパンクしてたんだ。だから今日は歩いてきた」 「そっか……」 ……話が終わる。 まぁ、無理して話をしなくてもいいだろうと思い、気を遣わないことにした。 そのまま商店街の道に入ると、通りは少し人が多くなってきた。 門脇君は体が大きいから、並んで歩くと通行人の邪魔になる。 明里は何となく縦並びになった。 彼はラグビー部だ。役割はバックス/スリークオーターバックス(TB)。TBは地味だがチームの土台となる存在だ。 昔、国体でラグビー会場となったことが始まりで、熊谷はラグビーが盛んだった。 後ろを振り返って門脇君が言った。 「縦に並ぶと、入場行進みたいだ」 明里は彼の真後ろ、二歩ほどの距離を歩いていた。 同じ速度で一列になっているから、たしかに、選手入場みたいだ。 明里は、ふふっ、と笑った。 「ん?」 門脇君が眉を少し上げて明里を見た。 そういえば男子と一緒に帰ることは初めてかもしれない。 ふとそんなことを思った。 女子高生だというのに、自分はあまり異性間の恋愛に興味がない。 クラスの女子たちが、何組の誰がかっこいいだとか、あの子とあの子は付き合ってるだとか、そんなゴシップはどうでもよかった。 特に無意味に感じたのが自分の好きな人と話をしたとか、仲良くしていたとか、同じ人を好きにならないでという内容だ。 あんたの片思いなんて知らんがなと思ってしまう。 「来週花火大会だな。一緒に行く人いないけど」 「そうなんだ」 そういえば、商店街に提灯がぶら下がっていた。夏祭りの準備をしてるんだと思った。 この暑さは夜間でも続く。わざわざ人ごみに出かけてまで不快を味わう意味が分からないと思った。 門脇君は一緒に行く友達が沢山いるだろう。 なぜいないなんて言うんだろう。 「一緒に行く?」 「なんで?」 なぜ自分が門脇君と一緒に花火大会に行かなければならない。 「え、それ訊く?」
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