クリオネプロムナード

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クリオネプロムナード

海洋交流館は道の駅になっている。 コンビニやフードコート等が入っていて賑やかだった。 そこからオホーツクタワーへと続く遊歩道は五百メートルほどの防波堤でクリオネプロムナードと言うらしい。 石造りの円柱がオホーツクタワーへと向かって立ち並んでいる。クリオネプロムナードの両サイドは海だ。 一人で行くからここで待ってて、と明里は言ったが門脇君はついてきた。 無音のため息をつく。 「海に流したいものがあるから、ここで待ってて」 もう一度、門脇君に懇願するように訴えた。 明里は海のすぐ近くまでクリオネプロムナードの階段を下りて行く。 そして防波堤から身を乗り出した。 門脇君が明里のダウンコートをがしっと掴んだ。 「海に流したいものって何?」 「……おじいちゃん」 「え?」 何を言っているのかと門脇君が怪訝そうに明里を見下ろす。 「散骨するの」 カバンの中から出した、ビニール袋を手に持って彼の、顔の前に掲げた。 「骨?」 明里は頷く。 「え、明里のおじいちゃん、そのビニール袋に入ってんの?」 明里は頷く。 「だから、一人にして」 少し考えていたようだが、わかったと言って門脇君は階段を上っていった。 薄紅の空からちらちらと雪が舞い降りた。 防波堤には明里の他に誰もいなかった。 門脇君は離れて静かに様子を見守ってくれていた。 ◇ 明里はビニール袋を破るとおじいちゃんを海に還した。 おじいちゃんの故郷の海へ。 雪はやんでいた。おじいちゃんの遺灰は僅かに吹く風に乗って、夕焼けの薄紫と夜の紺色が混ざったような冷たい空へ舞っていく。 「ごめんなさい……おじいちゃん、ごめんね……」 涙が出た。 お葬式のときも出なかったのに……どんどん涙が溢れ出して、止まらない。 「北海道にあんなに帰りたいって言ってたでしょ……何度も、帰りたいって……」 おじいちゃんは、自分の事は何もできないし、手がかかって面倒だった。 けれど嫌いではなかった。 歩く度に下を向いて歩くから、よだれがダラダラ床に落ちて、それを拭くのにウンザリした。 毎朝、水虫の足にワセリンを塗るのも嫌だった。 小さい頃は北海道のおじいちゃんの家に行くのが楽しみだった。 夏の海は綺麗だったし、おじいちゃんの船に乗せてもらって、操舵室に入れてもらえることも特別な気分で嬉しかった。 だから嫌だけど嫌いじゃなかった。 おじいちゃんの孫のうち、一番小さかったのは明里だった。とても可愛がってもらっていたと思う。 よく明里に船の玩具を買ってくれた。 船なんか好きじゃないし、ぜんぜん欲しくもなかったし、嬉しくもなかった。 けれど。 けれど、もう一度家族を与えると言われたら、きっと同じおじいちゃんを選ぶだろう。
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