埼玉へ

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電車が着かなければ良いのにと何度も思った。 明里と門脇君はずっと手を繋いでいた。 明里は門脇君のことが知りたかった。 なぜ海上保安官になりたいのか門脇君に質問した。 「泳ぐのが好きなのと、海が好きなのと、他のやつより体力に自信があるから」 確かに体力ありそうだと思った。 「海のない県に住んでいるのに、海が好きなんだ」 「だから尚更憧れがある。幼稚園の頃からずっと水泳は続けてた。けど、中、高は水泳部がなかったから、柔道とラグビー」 「水泳と格闘技と球技。なんかバランスがいいというのか、何でもありなのか。凄いね」 「いろいろやってみたかったのと、身体がデカかったからそっち系の部活に誘われる事が多かったから、やったって感じかな」 何でもできるのもすごいなと思った。 明里は学校で、今まで門脇君を意識して見ていなかった。 自分はクラスの男子に興味がなかった。勉強しかしていない寂しいJKだったから仕方がないけど。 「明里は?えっと、陸上以外はやった事はないの?」 「球技は苦手かな。家にいる事が多いから勉強してた」 「学校ではサッパリしてるっていうか、何事にも動じないというか。確かに常に勉強してるイメージだな。クールな子だなと思ってた」 確かに、趣味とかを聞かれると困るレベルで何もない。 勉強してる事以外にイメージがないのは悲しいけど、それしかないから仕方がない。 「遊んでる暇がなかった。家の用事で忙しかったって言うと、寂しい子みたいで嫌だけど、実際そうだからね」 「麗美ちゃんとつるんでるから、他のやつと話をしてるところをあまり見ないな。話は面白いし、暗い性格ってわけでもないから、結構人気者になるタイプだと思うけど」 「人気者になる必要はないから」 「なんで?」 「門脇君だって人気者になりたいとは思ってないでしょう?」 まぁそうかもなと納得したようだった。 「駅で私に会ったとき、そんなに思いつめてたように見えた?」 北海道までついてくるレベルで、私はヤバそうだったのだろうか? 「んーと、まぁ、そうだな。大荷物背負って家出娘っぽい感じだった。どこに行くか聞いても言わないし、あ、コイツなんかヤバくね?って感じだった」 ハハッと笑いながら門脇君を肩で押した。 「でも、あれだ結果的に北海道楽しかったし、明里の事もたくさん知る事ができたから良かったよ」 「よくあんなに遠くまで付いてきたよね。私だったら行ってないかな」 「どうせ来れないだろうって思ってただろ?だから、意地でも付いて行こうって、逆に闘志が湧いた感じだった」 そんな話をしている間に地元の駅に着いてしまった。 もう少し一緒にいたいと思ったけど、あっという間に改札口まで来てしまう。 「それじゃ……その」 なんだか名残惜しくて、改札口を出てから話をしようとした時に。 「稜太先輩!」 門脇君を名前呼びする女の子が、私たちの方へ走り寄ってきた。
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