埼玉へ

3/3
前へ
/29ページ
次へ
学校が終わり、いつものように麗美と一緒に学校を出ようとした。 「あ、あの……すみません」 校門のところで呼び止められた。 相手はテニス部の真菜ちゃんだった。 麗美は『誰?』という顔をしていた。 「ん……と。はい」 「あの、この間駅で稜太先輩と一緒にいた方ですよね」 「そうだけど」 「少しお話があるんですが、いいでしょうか」 彼女は一人で来る勇気がなかったのか、友達を連れていた。 面倒だなと思った。 「あぁ、ん……と、駄目。ごめんね」 「なんでよ!!」 真菜ちゃんは敬語を忘れたようだ。まぁ、いいんだけど。 彼女がエキサイトしてくるのが伝わる。 ああ、この子泣き出しそうだ。 「ん?私はあなたに話がないから。駄目」 明里は笑顔でそう言うと、驚いた表情の後輩をよそに歩き出した。 「ひ、人のカレをとらないで!」 後ろから叫ばれた。 あぁ、こういうパターンか。明里はため息をつく。 「大丈夫。とらないし。話したくないのは、面倒なことが嫌なだけだから。後はあなたと門脇君が二人で話し合って。私は彼とは何でもないから心配しないで」 明里は真菜ちゃんにそう言って、麗美と一緒に校門を出た。 明里は麗美とカフェに来ていた。麗美は話を聞くまでは塾に行かないと言ってきかなかった。 「私は門脇君と北海道へ行った。けど何もなかった。だから彼女の邪魔はしないし、これから門脇君と私が付き合うとかはない」 明里は麗美にそう話した。同じホテルに泊まったけど何もなかったと報告した。 事実、何もなかった。 自分の本当の気持ちは絶対に誰にも言えない。 麗美は門脇君と二人で二泊三日も泊まったことに驚いたようだった。 それはそうだろう。まさか彼氏でもない男子と二人で泊り旅行なんて普通有り得ない。 「門脇君が、勝手についてきたんだよね?それで、一緒に泊まったけど、明里に手を出さなかったってこと」 「彼は、私が思いつめていると感じてついてきたの。家出とか、自殺とかするんじゃないかと思ったんだと思う。おじいちゃんが亡くなってすぐだったからね。私が介護をしていることを門脇君は知っていたし」 「じ、自殺って……」 それはないでしょう、と麗美は首筋をぶるりと震わせた。 「けど、北海道までついてくるなんて……でも、もし、明里がすごく思いつめた顔で大荷物で駅にいたとしたら、私もついて行ったかもしれない」 「門脇君はクラスメートが困っていたら放っておけない人みたいなの」 「そう考えると不思議じゃないかな」 麗美は考えているようだった。 そこまで彼がクラスメートに肩入れするのはおかしい。 そう思っているんだろう。 「確かに北海道までついてくるとは思わなかった。遠いからついて来られないでしょうという感じで私が話したの。そしたら彼は意地になったらしくて、絶対ついて行くって決めたんだって」 明里はわざとらしく笑った。 彼は正義感の強い人だ。困っている人がいたらほっとけないタイプ。 それは三日間一緒にいてよくわかった。 「でも、本当に何もなかったの?門脇君と同じ部屋に泊まったんだよね」 「そういうんじゃないから。何もなかった。私にはお兄ちゃんがいるし、門脇君はお姉ちゃんがいるし。別に異性でも気にならなかったんじゃないかな」 無理があるだろうと思うけど、本当の事は絶対に言えない。言っては駄目だ。 そう。私たちは、何もなかった。 「それで帰りに、たまたま駅で彼女に会ってしまったってことね」 「そう。間が悪いことに鉢合わせたの」 麗美は顔をしかめた。 「それは気まずいね。でも門脇君は、彼女に何て言ったんだろう?さっきの感じだと、門脇君は明里と付き合うから別れて、とか言ったのかな?」 『私のカレを取らないで』と彼女は言っていた。 「それはどうかわからないけれど、私は付き合う気はないし、あと受験まで一年でしょう?勉強頑張らなきゃいけない。そんな時に彼氏なんか作っていられない」 「そうだね。あと一年の我慢だもんね。ここまで頑張ってきたんだから、今更チャラチャラ遊ぶのはおかしいよね。今が一番大事な時だし……」 私達は高校生活で、必ずあるようなイベントを全て勉強に捧げた。 同志のような存在の麗美。 だからお互い気持ちは同じだ。 「うん。そう。とりあえずこれから門脇君と話をするけど、この問題をだらだら続けたり、尾を引くような感じだと、勉強にも差し障るから。さっさとケリをつけようと思ってる。もう私には構わないでって言うから、だから麗美は心配しないで。ごめんね面倒なことに巻き込んで」 「いや、いいよ。全然大丈夫。でもあの彼女、ちょっと怖かったから。これからも毎日一緒に帰ろうね。なんかされたら嫌だしね」 「ありがとう」と笑顔で麗美にお礼を言う。 「それじゃあ私は塾に行くけど、門脇君との話し合いで拗れたら、すぐに連絡してね。私は明里の味方だからね」 「ありがとう。頑張って」 少し歩くと麗美が走って戻って来た。 「い、今ね……恋バナしてたんじゃない?私たち!すごい!恋バナだよ」 そう言って笑った。そして二人でもう一度バイバイをした。 私たちは恋愛の話をしたことがなかった。 この年齢の女子が必ずしている話だろうけど、そういう話をした事がなかった。 門脇君との待ち合わせの時間まで後もう少し。 一度家に戻るには中途半端だ。 明里は勉強をして待っていようと、教科書を取り出した。 麗美に話してよかった。やっぱ友達は大事だな。なんかスッキリした気分で門脇君と話ができそうだった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加