ひったくり

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ひったくり

ちょうど郵便局の前に差しかかったときだ。 出口から出てきたお婆さんが、持っていた鞄を若い男にひったくられた。 私達の五メートルほど先でそれは起こった。一瞬の出来事だった。 門脇君はそれを見て、すぐに男めがけて突進した。 明里もしっかり、ひったくりの現場を見ていたけど即座に足は動かなかった。 そして門脇君は男の体に頭からタックルした。 フルフェイスのヘルメットを被ったその男は、勢いよく道に倒れ込み、持っていた鞄は道路に放り出された。 歩道にうつ伏せで倒れた男は、門脇君に乗っかられて身動きが取れない。 犯人は足をばたつかせて暴れている。 通行人の人達が遠巻きにその様子を見ている。スマートフォンで警察に電話している人がいる。撮影してる人もいた。 明里はどうしたらいいのかわからずに、あたふたしてしまった。 お婆さんの持っていたバッグは、二メートルほど先の道路に飛ばされていた。 その時、後ろから男が走ってきた。その人もフルフェイスのヘルメットを被っている 門脇君に加勢してくれるのかと思った瞬間、男は落ちているお婆さんのバッグを取ろうと手を伸ばした。 (え、なんで?) そう思ったと同時に、明里は走っていた。 犯人には仲間がいたんだ! 手を伸ばしてバッグを掴もうとする男を押し退け、明里はヘルメットの男よりも先にバックを右手で拾い上げた。 そして明里は走り出した。 この先、五百メートルほど行ったら交番がある。 そこまで走る! そう決めたとたん明里はもう駆け出していた。 「ゴラァ!まてぇぇ!」 メットの男は叫びながら明里を追いかけた。 明里は走った。猛烈ダッシュだ。 男は追いつけない。 明里は百メートルをトラックだったら十四秒フラットで走る。唯一誇れる俊足だ。 あんな男になんて走りで負けない。 女子高生だったから甘くみたのか、男は諦めずに追いかけてきた。 明里は途中の曲がり角で路地に入り自販機の裏に隠れた。 明里を見失った男が自販機の前を走って通り過ぎたのが見えた。 良かったとバクバクと鳴る胸を押さえてホッと息を吐いた。 明里がゆっくりと自販機の陰から通りを覗く。 肩で息をしながら道に出ると、門脇君が明里の後を追っかけてやってくる途中だった。 門脇君は明里の後ろを指さして。 「後ろっ!」 叫んだ。 振り向くと男が明里を見つけて、こっちにUターンして向かってくるところだった。 「交番!この先にある!」 明里が門脇君に大声で叫んだ。 「パスッ!」 門脇君のかけ声で明里は持っていたバックを門脇君に投げた。 しっかりキャッチし、鞄をラグビーボールのように小脇に抱えると、明里の横を止まらずに走り抜ける。 彼は交番目指して道路の真ん中をい一直線に走っていった。 犯人に捕まったら怖いと思い、明里も門脇君の背中を追って走った。 彼は速かった。 そのまま交番の入り口まで辿り着くと、勢いのまま中に飛び込んだ。 数秒遅れで明里も中に突っ込んだ。
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