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「ワタシの研究に協力して欲しいのです」
宮廷魔術師を名乗る男は、そう切り出しました。彼のことを私は知っていました。宮廷魔術師マロー。婚姻の儀の際に私をエスコートしてくれた長い黒髪をゆるく一つに束ねた25歳ぐらいの男です。左目にはモノクルをしていました。
彼の後ろに立つのは、褐色の肌の女の文官です。私と同じくらいの年齢に見えます。
城内の庭園、淡い陽光の入るテラスで私達は紅茶を飲んでいます。
「なぜ私が」
「まずはコレをご覧ください」
マローは手のひら大の紋様の書かれた紙を机の上に取り出すと、何かを呟くように発しました。忽ちに辺りに風が巻き起こり、庭園の薔薇たちを揺らしました。薔薇の花びらがふわりと舞い、香りが漂いました。
それは風の魔術師である私には心躍る風景でした。
「凄い......! 魔術具もなしに風を!」
私はこの国に来てから風の魔法を使えないでいました。この国では魔法を使うための魔素が少なく、10分集中してそよ風を起こすのがやっとだったからです。
マギカマズル国にある魔術具であっても、結局は魔素を変換する道具のためここまでの力は出ないでしょう。私の反応を見て、マローはやはりという顔をしました。
「ワタシの調べではマギカマズル国は大気中に魔素が溢れています。しかし、その他の国は大気中に殆ど魔素を含んでいない。そのため、マギカマズルの人々は強い魔法という武器を持ちながらも長年侵略や戦争をしていませんでした」
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