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「私の故郷は盗賊に焼かれまシタ。その際に私は酷い怪我を負って......。生死の境を彷徨ったときに当時兵士だったマロー様が救ってくださったのデス」
エルガリアが話し始めたのは、6年前のジールヴェーの南端にある小さな村での出来事でした。ジールヴェーの南端は帝国と隣接しており、帝国の圧政から逃げ出したならず者達が徒党を組んで周辺の村々を襲うことがあったそうです。
「当時はジールヴェー政府は盗賊と徹底抗戦する構えを推奨していました」
マローも観念して過去を振り返ります。
エルガリアの居た村も村長を中心に盗賊と徹底抗戦の構えをとっていました。しかし、卑怯にもお祭りの日に皆が酔っ払って寝静まった頃に盗賊達は村を焼いたそうです。
当時、マローは新米兵士でした。
肉の焼け焦げる匂い、いつも見ていた村が無くなっていく様ーー初めての戦場で見たあまりの惨状に、マローは隊列を勝手に離れ、逃げ出してしまったそうです。
マローは吐瀉物を吐き、フラフラのまま入った民家で、一家が盗賊に襲われているのを見ました。それがエルガリアの一家だったそうです。
盗賊はやっとのことで追い払いましたが、エルガリアの両親は既に事切れていました。エルガリアだけが虫の息でしたが、生きていました。
《せめてこの子だけでも生きていてほしい》
マローが心から願ったとき、精霊がマローの周辺を照らし、エルガリアの全身の傷を治したそうです。
「でも、それでマロー様は兵士では居られなくなッテ」
脱走。命令違反。そして”一生に一度のお願い”を勝手に使ったこと。
様々な罪でマローは軍を追われました。
(兵士は”一生に一度のお願い”で生き残る確率が変わるものね)
兵士ーーもしも、戦いの際に各々が国のために”一生に一度のお願い”を使えば凄まじい強さになるでしょう。しかし、そうであるからこそ、”一生に一度のお願い”を失った兵士に利用価値が殆どないこともわかります。
かくしてマローは剣に変わる新しい力を求めて研究を始めたとのことでした。
「お願いデス、シラティス様。マロー様の研究を成功させてください。名家の出身で将来を期待されていたマロー様の名誉は、深く深く傷つけられ、生家カラも縁を切られまシタ。マロー様の名誉のために、ドウカーー」
エルガリアは私に向けて祈りを捧げました。
(確かこれは、この国で一番の敬意と願いを込めたポーズ)
それは、この国でいい加減に過ごそうとしている私と対極にある願いでした。
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