VI

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「シラティス、最近マローと仲が良いみたいだね」  視線を感じるといえば、こちらもまた視線を感じる案件でした。王太子ディラン。私がこの一ヶ月、避けようとして避けられず、三日に一日はお茶会だと言って二人で紅茶とクッキーを嗜んでいる相手です。  庭園で風を起こすと高確率で窓からディランの視線を感じました。精霊の視線は感じないマローも、ディランからの視線は感じるので、その度に苦笑いされるのが常でした。 (仲良くしていた方が良いのは頭ではわかっているのです)  時折、お兄様と婚姻の儀を執り行ったアリシア様ーーディランのお姉様からだという手紙を見せてもらいました。  淡白なお兄様にしては珍しく、一応は仲むずまじくしているらしいです。マギカマズルの城下をお忍びデートしたという話を聞いたときはひっくり返ってしまうかと思いました。あの魔法以外に特に興味のない唐変木のようなお兄様が女の方と話している様子がどうも思い浮かばなかったからです。 (でも、それはきっと復讐のためにお兄様が努力をしているから)  私もそうでありたいと思うのに、そうはいかないのでした。  ディランは続けます。 「俺もシラティスともっと話がしたいんだ」 「そう、ですか」 (何を話せというのですか。気まずいです。マローとだったらもっと話が弾むのに)  マローは私と仲間として損得勘定で話をしてくれます。彼は失われた名誉のために魔術の研究をして名誉を回復させたい。私は一年間なんとかジールヴェーに居てマギカマズル国が和平を望んでいると思わせるために国に貢献しているスタンスをとりたい。  ですが、ディランは私と人間としての心の通わせを期待しているようでした。どこまでも誠実な彼に私の心は少しだけ後ろめたさを感じてしまっています。 「マローは大人ですから色々教えてくれます」 「いつから名前呼びに?」  “つい先日からです”ーーと、はぐらかしたのに、やたらと詳細を聞かれます。こういったところはマローにはないところです。 「マローとは魔術や精霊の話をしています」 「それなら俺だって話せる。一体何を聞いたんだ」  ディランは少し拗ねたように唇を尖らせます。 (一体何が癇に障ったのでしょう)  ディランはお兄様とは違う男の人です。お兄様であれば、淡々と嫌なことは嫌、ダメなことは理由をつけて退けてくれました。ディランは今まで考えてくれていることやしてほしいことをきちんと言葉で伝えてくれていましたが、マローが関わるとどうもその辺りをしてくれないようでした。  とはいえ、研究のため私と接している時間が一番長いマローの話が一番の話題になるのは仕方がないと思います。 「”一生に一度のお願い”の話を聞きました。興味深いです。マローは”一生に一度のお願い”を使ってしまったようですが」  そこまで聞いたのかーーとディランは少し目を丸くしました。 「実は俺も使ってしまったんだ。後悔はしていない」  ディランは驚くほどあっさりと自分の”一生に一度のお願い”がもうないことを明かしました。そんなに簡単に明かしていいのか問うと、シラティスだから話したのだと言います。 「辺境の視察の際に倒れていた人を救った。少し前までは俺にも妖精の声がよく聞こえていたんだけど、もう聞こえないな」  “鈴の音のような美しい声だった”ーーと、ディランは振り返ります。
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