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ディランは階段を上り下りすると、どこかの扉を勢いよく開けました。そして、私の目隠しや拘束を優しく外します。
「「「奥様! 歓迎会にようこそ!!」」」
「え?」
連れてこられたのは、城のパーティー会場でした。華やかな緑と白の装花や装飾が並び、大きなケーキや料理が並んでいます。フルーツタワーのようなものもあって、いつも仕えてくれている侍女達や給仕のもの達まで大集合でした。
演奏家達によって音楽が奏でられ、踊っている者達もいます。
「これは.....一体......?」
「今日で奥様がこの城に来られて1年の2/3が経ちました。ジールヴェーでは特別な想いがあるときに2/3記念日をを制定します」
それはマギカマズルにはない不思議な慣習のようでした。
(処刑じゃ、なかった)
ディランは私の腰を支えるようにそっと手を回しました。
「シラティス、手荒なことをしてごめんね。ジールヴェーでは誘拐してから驚かせるのが恒例なんだ」
「び、びっくりしました」
心臓がまだバクバクしています。気がつくと手足が震えているのに気が付きました。
(私、怖かったんだ)
この緩くて温かい日々が終わることを、私は自分が知らない内に恐れていたのです。そして、私の命がなくなること、ディランに失望されることもーー。
(復讐だなんて言っておいて、私......)
「シラティス......?」
「ディラン様、あまりシラティス様を虐めないでください」
私達の間に割って入ったのはマローとエルガリアでした。マローは今日は黒の装いに銀の装飾の正装を纏っています。エルガリアは青い小花の散った白いドレスです。マローは私の前に跪くと手を差し出しました。
ディラン様がその手を胡散臭そうに見つめます。
「マロー、何を」
「シラティス様、最初の一曲はどうか私と」
私は気持ちを落ち着けるためにも、マローの手を取って踊る輪の中に入りました。
*
「シラティス様は何か不安があるのですか?」
マローは私の手を引きながら尋ねました。皆に倣ってスローテンポなダンスを踊り始めます。
「......。」
私はマローの問いに答えられません。
やがて裏切ることは誰にも言ってはならないのです。
「もしかして、まだ精霊が見えて居ることを黙ってらっしゃるから?」
「! ......いつから?」
「陛下が回復してすぐですよ。シラティス様は虚空を見つめている時間が長過ぎましたから。ワタシから周りの者には故郷が恋しいのだと伝えておきました」
マローは随分前から気付いていたようです。隠すつもりはあまりありませんでしたが、そのようなこと一つでさえ、私は誰にも打ち明けられないでいました。
「ありがとう」
「大丈夫です。黙っています。いえ、むしろ、協力させてください。精霊については知りたいこともあるので。だからーーそんなに泣きそうな顔をしてはダメですよ」
根本的な問題は何も解決していないのです。
ですが、少しだけ救われた気がして、つい涙が出てしまったようでした。
マローは私をそれとなく会場の隅の方に連れて行き、泣き顔を隠してくれました。
*
侍女にお化粧直しをして貰って、再度会場のステージの方に向かいます。
「シラティス、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
その後は心配したディラン様がピッタリと横に付くようになりました。
ステージ前には肉料理や魚料理、フルーツが盛り付けられ、皆がお酒を飲み交わしながら談笑しています。
「あ、シラティス様!!」
大きな声の司会が私を目敏く見つけました。
「シラティス様!」
「待っておりました!!」
「本番はこれからですね!」
「?」
呆けている私を置いて、突然のゲームが始まります!
「シラティス様の良いところを言い合おうゲーーム!」
それは私の良いところを参加者が言っていく謎のゲームでした。これは無礼講といって、不敬罪は適用されないお遊びだそうです。
「小動物のように可愛い!」
「13歳なのに仕草が美しい!」
「陛下からもらったお菓子の余りを侍女に分けてくれる!」
「な、なんなんでしょう。これは」
「俺も参加する! シラティスは可愛い!」
「殿下、それはもう出てますよ」
「ブーブー!」
「真面目にやってください!」
いつも皆から慕われているディランが茶化されているのは珍しい光景でした。
「あ、笑ってくれた」
「あっ、ご、ごめんなさい」
「ううん、もっと、笑ってほしい」
全くもって不思議な催しでした。
それでも、悪くない、居心地が良いと感じてしまう自分が居て、心がきゅっとします。
また、ステージの上でイベントのように白いドレスに着替えさせられることもありました。それは奇しくも、婚姻の儀に着たものに似た、さらに素敵なドレスでした。
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