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XII
【三年後】
とても不思議なことが起こりました。
マギカマズルとジールヴェーの国境付近は寒波から凍結されたまま。周辺国からの迂回ルートも何故か自然の悪天候が続き、ジールヴェーは自然の要塞のようになりました。
今やナカマ国や帝国でさえも、ジールヴェーに踏み込むことは出来ません。
「シラティス、今日は二人で湖畔に行こう」
自室に篭っていると、ディランはいつものように私を呼び出しました。まるで妖精が祝福しているかのように、王城や都の周りはいつも良い天気でしたから、私たちはジールヴェーの自然を堪能することが出来ていました。
この三年で私、シラティスは少女から美しい女性へと踏み出し始めていました。そして、ディランもまた少年から青年へと見目麗しく成長しています。
繋いだ手はもうすっかり大人の男性の手でした。
私が侍女に持たせていたバスケットを湖畔のボートの上で開けて、二人で啄みます。鳥の囀りを聴きながら、湖から見える野の花々を愛でました。
「このクッキー、シラティスが焼いたのかい? おいしいね」
「えぇ、侍女にやり方を聞いたのです。ほら、この茶色のものはーーっ!」
ディランは私がクッキーを持つ指をそのまま引き寄せてクッキーを食べました。
「シラティス、好きだ」
手を触れるぐらいだった私とディランの仲は、今や次第に指を絡め、抱き締め合うようになりました。
ボートが、傾いて、揺れます。
好き。沢山の「好き」の言葉が麻酔のように私を何も考えさせられなくしました。
(お父様が迎えに来なかったから)
そんな一筋の言い訳を胸に抱きながら、私はディランの唇を見つめます。
(まだ、まだ、キスはしていません。だから、大丈夫)
本当は何一つ大丈夫ではないのに。
私の恋心は、もうどうしようもないくらい膨れ上がっていたのです。
*
そんな私達の蜜月を壊したのは、マローの魔法紋でした。私が研究協力していた魔法もどきで作った火の魔法が、国境を閉ざしていた大きな氷柱を溶かしたのです。
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