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XIII
「シラティスさま、本当に良いのデスカ?」
私の旅装を用意してくれたのは、エルガリアでした。マローが開発した魔法に強いローブや、地図なども手持ちにあります。長くなった髪を一つに結んで頬を叩きました。
「えぇ、私決めたの」
「どうかご無事で。シラティスさま、エルガリアはとても感謝しておりマス。エルガリアの望みを叶えてくれたのは、精霊ではなくシラティス様でした」
「マローの頑張りあってこそよ」
ここ数年でマローの研究は飛躍的に進み、誰からも認められるまでとなりました。今やマローは魔法塔と呼ばれる専門の塔が与えられるほどの重要人物です。
「マローさまから、シラティスさまにです。シラティス様が帰国を決意されたら渡すように言われています。一人のときにお読みくださいと」
マローから与えられたのは一通の手紙でした。
ふと、精霊達が宝石箱に沢山集まっているのが見えました。陛下から賜ったネックレスの入った箱です。
(これも持って行きましょう)
少しだけ大人になった私には、このネックレスが似合うようになっていました。今の私であれば、お父様やお兄様とも対等に渡り合える筈です。
*
「里帰りーー?」
「はい、一度帰りたくて」
恐れていた事態が起きる前に、私は自力でマギカマズルへと帰らねばなりません。王城の花園の中、ディランと手を繋いだまま、私は横並びで祖国に一度帰ることを伝えました。
「では、俺も挨拶に行こう。姉上にも会いたいし」
「いいえ。一人で帰らなければならないのです」
ディランがマギカマズルへ行けば、お父様は間違いなくディランを殺すでしょう。
(マローからの手紙には、マギカマズルとジールヴェーの抗争に帝国が裏で糸を引いていたことが書かれていました)
《シラティス様、精霊が何故シラティス様を好むのかについて調べていたら、奇妙なことがわかりました。》
マローはそもそも私がこの国に来ることになったキッカケの事件から調べてくれたようです。
その結果、この三年ーーいえ、四年間、私を苛み続けた”ディランがお母様の仇である”という情報は嘘であるとのことでした。
(本当は今すぐにもディランに疑ったことを謝りたいです)
しかし、今はそんな時間はありません。そして、マギカマズルでそれを信じてもらうことは不可能だと思うのです。
「シラティス、必ず帰ってきて欲しい」
「はい、必ず」
ディランは私を引き寄せます。
この数年間で何度も感じた心地の良い心音が聞こえます。
今はこの安らぎにお別れを告げねばならないのです。
ディランの腕の中で感触を噛み締めていると、ディランが私の顎を持ち上げました。
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