XVI

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 しかし、お兄様もお父様もまるで信じてはくれませんでした。 「シラティスもわかるだろう。火の波動はもう感じない」 「お母様は死んだ。君の夫が殺したと聞いている」  私は精霊から託されたお母様の赤い髪の束を見せました。 「いいえ、その情報から帝国の流した策略だったのです。帝国は私たち魔法の国と向こうの精霊の国の双方に特殊な力があることを知っていました。ですので、二つを戦わせて疲弊させるために全てを仕組んでいたのです」  これは国境付近の精霊に聞いたことです。 「お母様は帝国の密偵の存在を知って一人国境付近で戦っていたのです。しかし、帝国の罠にかかり瀕死になりました」 「そんな」 「しかし、そこに私の夫ディランが通りかかったのです」  ディランはお母様が何者かを知りませんでした。そして、その後精霊達はお母様を隠してしまったのです。 「お母様はディランが使った精霊の力”一生に一度のお願い”でかろうじて命だけは繋ぎ止められました。けれど、お母様はジールヴェーの人間界と精霊の棲家の狭間に居るのです」 「どういうことだ?」 「お母様ーーいいえ、私も。お父様も、お兄様、マギカマズルの王族の血を引くものは全て遥か昔、ジールヴェーに居た精霊女王の子孫だからです」  国境の間際にいた精霊は言いました。  《遥か昔、精霊は全ての人間の前に姿を現し、人間の願いをなんでも叶えていました。しかし、ある時、精霊女王に”あなたと結ばれたい”と罪な願いごとを願った男が居ました。精霊女王は男のことが好きだったので受け入れましたが、精霊女王がするべき妖精の面倒を見ることをしなくなってしまいました。それを怠慢だと思った一部の精霊はそんな精霊女王と男をこの山岳地帯を超えて不毛の地へと追いやったのです》  国境の間際に居る精霊達は、罪の意識からそこを離れられないで居たそうです。そして、何も知らない都の精霊達はいつまでも精霊女王を探しているーーと。  《あの人を見たとき、私達は一目で精霊女王の血を継いでいるとわかりました。だから、返してもらうか悩んでいるのです》  私は精霊に告げました。”また迎えに来る”と。 「ですから、お母様はまだ死んでは居ません。そして私達が真に戦うべきは帝国なのです」  お父様は涙し、お兄様は青褪めた顔をしました。 「でも、もう遅いよ。この魔法陣に止める機能はない。ジールヴェーは水没するんだ。もう低い位置に居るものは溺れ始めているさ」  私は翼をもう一度つくります。  二人は私が何をしようとしているかわかったようです。 「待ちなさいシラティス!」 「君が行ったところで何もできない!」 「ねぇ、お父様。お兄様。私、恋をして人を好きになるって気持ちが初めてわかったんです」  私は城の縁から空へと飛び立ちました。
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