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XVII
「お願い、間に合って」
空は快晴。飛ぶのに支障はありません。
ジールヴェーとの国境を越えた途端、凄まじい量の水が地面の下から湧き出ているのを目撃しました。きっとこれはお父様とお兄様の魔法を数年掛けて掛け合わせたものなのだと思います。
お父様の魔法で地を割り、そこからお兄様の魔法で水を出しているのでしょう。おそらく海側の標高の低い場所の地面は隆起させている筈です。
人々はより高い建物や山に逃げようとしますが、徐々に水にのまれていきます。
「そんな......」
きっとこの国は終わりです。水は静かにかさを増し、都の付近まで押し寄せます。二人で出歩いた湖畔も、魔法の練習をした庭も何もかもが沈んでいきます。
私は風を起こして水を食い止めようとしました。
しかし、風は水の中に渦を作るだけで堰き止めることは出来ません。
「ディラン......!」
私はディランを探しました。
どうやら城の上の方で何やら指示をしていました。上空に居る私を見つけ、手を振ります。
「シラティスーー!」
しかし、それを見た兵士の一人がディランを水の中に突き落としたのです。
「!」
「この尋常じゃない水はマギカマズルの仕業に違いない! あの悪魔のような女をーー!?」
男が何かを言っているのを最後まで聞くことは出来ませんでした。城に招集されていたであろうマローが男を水の中に突き落としたからです。
「シラティス様! 早く、ディラン様を!」
「そんな、私......」
「ーーーー!」
マローが何かを言っていますが、私には聞こえませんでした。
(せめて、ディランーー愛した人だけでも、救いたい)
私が家族を上手く止められなかったせいで、この国は滅びてしまいます。本当はみんなを救いたかったけれど、私には力が足りなかったのです。
私は小瓶の中から人魚の鱗を口に含むと、水の中に潜ります。美しい、水でした。濁流となってもおかしくないのに、清らかで皆眠りにつくように水の中に浮いています。
(ディランーー居た!)
私はディランを見つけると、唇を合わせて人魚の鱗を送り込みました。
(初めてのキス、こんな形になってしまうなんて)
きっと、ディランだけは生き残るでしょう。
水に沈んでいくジールヴェー。
私もまた、水底に沈んでいくのです。
私は何かをしようとしても、お兄様の水の中では風は上手く使えません。
そのとき、首に掛けていたネックレスが光りました。
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