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「やぁ、シラティス。約束、ちゃんと守ったよ」
「ありがとうございます殿下」
ディラン=ジールヴェー。16歳にして王太子であり騎士でもある存在。この日のために設えた金の装飾のある正装に爽やかな笑顔が映えます。一般的に見れば見目麗しく、人柄も申し分ない素敵な方です。
(決して、私はそのようなことは思いませんが)
「名前で呼んで。ディランって」
「ディラン様。勝手を申したにも関わらず、ご配慮いただきありがとうございました」
約束ーーとは、婚姻の儀で口付けをしないことでした。この国に来て、初めて顔を合わせたとき、何か婚姻の儀で要望はないかと聞かれ、私は身勝手にもそのようなことを願い出ました。
(彼とキスなんてしようものなら、私は憎しみの余り唇を噛みちぎってしまうと思っていました)
しかし、私の心の中など梅雨知らず、彼はまた少し顔を赤らめるのでした。
「もし、気持ちが変わってキスしても良いというときになったら、話して欲しい」
決して言いなりではなく、自分の意志を伝えてくる彼。一般的に見れば、悪い人ではないのだと、思います。
「......。」
しかし、私は黙ります。そのような日は永遠に来ることがないことをしっているからです。沈黙に耐えかねたように、彼はこう切り出しました。
「陛下に挨拶に行こう」
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