勝利

1/2
前へ
/4ページ
次へ

勝利

 すぐにベザスに服を着せる。落ちていた剣を拾いとりあえず装備してもらう。  洋館の崩壊が始まっていた。  「結界が崩れる・・急いで」  ルシェンダが歪みつつある時空の中で、歩むべき方向を的確に示す。  繰り返し行ったり来たりしていたかと思うと、気が付くと外に出ていた。  「黄泉の番人・・」  遠くの歪んだ色彩の中に、黄泉の番人がランタンを手に持ちながらこちらを振り返る。  今まさにその門を閉めようとしているところだ。  全員が急いでそこに駆け込む。  なんとかそこから外に出られた。  一瞬ネガポジ反転のように色彩が入れ替わり、そして瞬きをした瞬間に、穏やかな雰囲気の平原に転がり出ていた。  全員汗だくである。  人生でこれ以上無いくらいに全力疾走をしたのだ。無理も無いことだ。  数分かけて呼吸が落ち着くと、気が付けば抱き合っているターナとベザスの姿に遭遇する。  二人はそれまでのいきさつを会話しながらやりとりしている。  助けてくれたのはこの二人だとして、ルシェンダとリエルが紹介される。  4人はすぐに打ち解けて仲良くなった。  問題はこれからである。  一旦は、地獄の番人が手を引いたように見えるが、これから何をしてくるかわからない。そして事情としてはもうあの町には戻る事ができない。  一行はこれから暫く共に旅をする事に決めた。  長い旅になる予定だったが、それはつかの間に過ぎなかった。  今度はターナがアット・アーモン・3世に誘われたのだ。  あっという間の出来事だったという。  ターナとベゾスが二人で草原の中に座っているところに、それは現れて、いきなり奪い去った。何かをする間も無く、である。  その話をベゾスから聞いて、3人はターナを取り戻す事にした。  キャンプを繰り返し1週間くらい歩いた。  水晶玉はなかなか、アット・アーモン・3世の居場所を突き止められない。  ベゾスはターナの事を思い浮かべながら、毎日祈っている。  「戦いの中に生きるんじゃなかったの?」  ルシェンダがリエルに問うた。  「どうした?唐突に。」  「いや・・。つかの間の幸せだったなって。一時はそういう人生もあってもいいかなって思ってたような表情してたから。」  「ふん。俺は戦いの中にしか居場所は無い。」  「誰がリエルをそんな風にしてしまったんだか。」  「戦士は戦ってなんぼだろう。」  「武勲を上げても何も差し上げられませんが」  「違う。自分の納得感の為にやってるんだ。」  「そう。」  再び旅を続ける。  一行は港町にたどり着く。  港では船が座礁したとして大騒ぎだった。  力の強い男達を急ぎかき集めている。  リエルとベザスはすぐにそれに応じて参加した。  腰まで水に浸かりながら大男たちが、巨大な木製の船を沖に押し出す。  「なんでこんな事になっちまったんだ。」  野次馬の一人が言う。  ルシェンダは答える。  「船長が幻惑の魔法にかけられたんだよ。」  「幻惑・・」  王国きっての巨大船である。  様々な加護がかけられており、ちょっとやそっとの幻惑の魔法には、感化されないように、強力に守られいてた。  しかし、その加護が無力だった、ということになる。それともそれを上回る魔力だったとでも・・。  「国の大神官を上回る能力の持主・・もしや」  ルシェンダは踵を返すかのように、波打ち際に立つ。  そして魔力で空中に浮かぶと水平に進む。  今まさに沖に戻されようとしてる船の方に向けて高度を上げる。  そしてついには、船の甲板に降り立つ。  「人がいない・・確認なしで沖に押し戻していたのか?」  その時、強力な魔力が船の内部から感じ取られた。  「まずい!!!!全員離れろ!!!!」  ルシェンダは船を押している男達の方に向かって降りると、男達にそのように指示をした。  男達はしぶしぶとその命令に従う。  そして男達が全て後ろに遠ざかったところで、杖を空中に浮かせる。  呪文を唱える。  そして、見えない半透明の壁を、砂浜と船との間に作り出した。  その刹那、船が大爆発をする。  爆発のエネルギーは半透明の壁にはじき返されて、浜に集まる人々には被害は発生しなかった。  「危なかった・・・」  間髪入れる事なく、大破した船の中から、アット・アーモン・3世が姿を現す。  「わはははは。よくぞ見破ったなぁ。褒めてつかわそう。」  「日中なのに、太陽の光大丈夫なのか。」  「ははははは。吸血蝙蝠は仮の姿よ。」  ルシェンダはアット・アーモン・3世めがけて、魔力の光線を数十本連鎖的に発射する。  アット・アーモン・3世はそれを上手にかわしながら上空へ舞い上がる。  ルシェンダも宙に踊り出る。  杖を真横に持ち、そして強力な術を詠唱する。  「太古の魔法か・・。貴様・・。」  アット・アーモン・3世が若干うろたえる。  「地獄に生きる者は、人の情や愛に力を認めながらも、感じ取る事はできない。道具として扱う事以外に思いつかない。」  「何が言いたい?」  「太古から人間の情や愛、絆が妬ましいのではないか?」  「何のことだ?」  「一度、地獄の悪魔に聞いてみたかったのだよ。」  ルシェンダは印を結ぶ。  吸着するかのごとく、光の礫がアット・アーモン・3世にまとわりつく。  「俺を封じ込めるつもりか?」  「そうだ。」  「どこで身に着けたその強大な魔力は。」  「私は神から使わされた魔法使い。ルシェンダだ!!!」  光の礫が強力にアット・アーモン・3世を覆い包む。  そしてギラギラと閃光を派手にか輝かせ、たかと思うとアット・アーモン・3世は、一枚のカードに姿を変えた。  ルシェンダは着水したばかりのカードを拾い上げる。  「せいぜい半日ってところだな。封じ込められるのは。」  やれやれという表情をしながら、カードに封じ込められたアット・アーモン・3世を睨む。  ルシェンダは空間上に、魔力で大きな穴を作り出す。  そしてその中に、カードを投げ入れた。  「地獄に帰ってもらった。奈落から地上に這い上がって来るまでには数十年かかる。暫くは地上は安泰だ。」  そして先ほど爆発した船のがれきの中に、大きな白い箱が見つかり、町人は大騒ぎしていた。  「どいて。」  ルシェンダはその箱を開ける為の魔法を唱える。  箱が開き、その中から眠った姿のターナが現れた。  「よかった。無事だった。」  今度はベザスがターナを激しく揺さぶって目を覚まさせる。  目が覚めると二人は抱き合って喜んだ。      
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加