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ふわぁあ、と欠伸をしながら校門をくぐる。今日も、嫌悪対象が周囲をさまよっている。ゾンビみたいだ。……あぁ、だめだ。ほんとにゾンビにしか見えなくなってきた。
「おはよ。」
昨日の、肩から虹が生えていたゾン・・・じゃなくて、男子生徒――あぁ、名前はたしか星川樹月だ――が、すれ違いざまに挨拶をしてきた。
「うるさい、邪魔。一生関わってこないで。」
「ごめんね。」
苦笑し、謝ってきた樹月を睨みつけ、足を速める。どうせ、口先だけの謝罪だ。というより、あの謝罪は「できない」という意味合いのものだろう。
私は低血圧だから朝は眠いし、機嫌も悪い。つまり、私は今、不機嫌さの塊がヒト型をとっているだけの、生命体とすら言えないかもしれないなにか。
「ん?」
眉を、ひそめる。下駄箱の陰に落ちているメモは、どこからどう見てもイタリア語だ。なぜ、こんなものがここにあるのだろう。しかも、この筆跡は―――。
不信感を抱き、指の先だけで拾い上げてから、教室へ向かった。―――汚いから、本当は触りたくなかったけど。
ありえない。メモを読んだ瞬間、怒りが爆発しそうになった。抑え込んだけど。隣の席の体格のいい野球部男子生徒が、椅子どころか机ごと飛びのいたのは……見なかったことにしよう。あ、授業中だったから教師に注意を受けた。まぁいいか、どうでもいい。そんなことより、こっちのほうが問題だ。
だって、どこからどう見てもこれは―――。メールを送ることを決心する。授業中だからと配慮した。電話ではないだけましだろう。
きっかり五十三秒後、超即急で書いたらしい誤字脱字の多すぎる返信が来た。音量がそのままだったから教室中に着信音が響き渡ったけど、不真面目さで教師の覚えがめでたい、隣の野球バカに押し付けておいた。こういう時、優等生の称号は役に立つ。絶対に疑われないから。
―――あぁ、やっぱり私は天才だ。
二週間後。クラスで一番の私が嫌悪している女子グループは、とうとう退学した。あのメモに書いてあったのは、簡単に言えば、学校で私を孤立させてイタリアに追い返せ、という内容の文章。聞えよがしな陰口や噂もそうだが、最近頻繁に紛失や汚損していた物品のほとんどは、彼女たちの仕業だったらしい。ほかにも、調べたら余罪がボロボロドバドバジャバジャバザーザー出てきた。結果、一か月の謹慎との沙汰が学校より下されたが、彼女たちは謹慎期間が終わるまでもなく自主退学した。他校に転校したらしいが、あっという間に拡散されて広がった悪評で苦労しているらしい。彼女たちの親には同情するが、本人には乗除酌量の余地は皆無だろう。いや、親にも責任はあるのではないかと思う。
そして、肝心のメモを書いた人は―――イタリアのストーカーまがいの幼馴染(自称親友兼恋人。これを聞く度、心の底から虫唾が走る)で、しかも、私に会えないのが嫌だとか言うくだらない理由だった。今度帰国したら、彼の、見た目だけは麗しい(中身はスカスカの空っぽ)顔面にハイキックを数発入れておこう。あ、ついでに、サンドバックにもなってもらおう♪今から、その時が待ち遠しい。
他に特筆することは……星川との関係性だろうか。無駄に絡んできて面倒だった彼だが、意外と面倒見が良いことがわかり、今回の件にもかなり協力してくれた。今では、数少ない嫌悪対象外の人間に格上げされている。
あぁ、今日も、彼の肩から生える虹は、鮮やかで、美しい……。
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